終了・報告

SOUP の研修 2021 「第2回 重度の障害のある人と芸術文化活動」報告レポート

開催日
2021年08月23日(月)
時間
14:00〜16:00(受付13:45)
場所
Wonder Art Studio(ワンダーアートスタジオ)
〒984-0073 宮城県仙台市若林区荒町172 第一旭ビル2階
<オンライン見学>  オンライン:ZOOM *対面とオンライン併用で実施
講師
高橋雅子(ホスピタルアーティスト)
テーマ
社会で生きづらさを抱える人に寄り添った活動を国内外で精力的に行ってきた高橋さん。おもに医療現場の病床にある人、障害のある人、被災した人たちなどと向き合ってた。今回の研修では、全身や四肢に障害のある人や、言葉ではない方法でコミュニケーションをとる障害のある人と、どのような方法で活動をしているか。2016年に開設した開放的なスタジオで、実際の画材や作品を前に支援の視点を考える内容とした。
参加者
会場:9名(5団体・進行運営含)
オンライン:11名(8団体) 合計20名
宮城県からは仙台市、塩竃市、石巻市、白石市 註:当初、対面でのワークショップ形式を予定し申し込みを受け付けていたが、8月13日に宮城県と仙台市が新型コロナウイルスの「独自の緊急事態宣言」を発出し(その後8月27日から「まん延防止等重点措置」)、急きょ、現地での研修に加え、オンライン見学も可能とした。その理由は、早い時期から申し込みしていた参加者の多くは、重度の障害のある人たちの現場にいる人たちであり、コロナ禍、日々の活動に楽しみや喜びの時間をつくりたいと考えていることを想像したためだ。 結果、療養介護、生活介護、就労継続支援B型事事業など、障害のある人の直接支援に携わる方はすべてオンライン参加に切り替わった。
当日の流れ
13:45 開場および Zoom 開設
14:00-14:10 主旨説明、諸連絡、講師紹介
14:10-14:30 講師より、①団体紹介、②重度の障害のある人とアート活動について、動画とスライドによる紹介
14:30-14:50 実施の視点~場のつくりかた、材料・道具、個別の支援、作品展示と鑑賞
14:50-15:15 質疑応答
15:15-15:25 休憩
15:25-15:50 実体験のプログラム
15:50-16:00 アンケート、情報交流

<その他>
・Wonder Art Studio(ワンダーアートスタジオ)内の3階ギャラリーにて、活動紹介の展示が鑑賞できた。
・現地参加者は、実体験の時間があるため、汚れても良い恰好で参加。
配布物
Wonder Art Studio法人パンフレット、冊子「生きる を輝かす」、2020年度報告書

さまざまなバリアを、とりはらいたい。

はじめに、講師である高橋さんご自身と、ワンダーアートスタジオの活動のこれまでと概要がスライドで紹介された。
講師の高橋さんは、美術館でのキュレーターや子どもたちとのワークショップの経験などを経てNPOを設立。1999年から、病院のなかに彩(いろどり)を加え豊かな時を過ごしてもらうための活動としてアートプログラムを実施してきた。2011年の東日本大震災のあと、岩手・宮城・福島県を巡る活動は10年になる。仮設住宅の方たちの環境をかえる活動、子どもたちのアートキャンプなど、地域の復興のステージに応じ伴走する活動が特徴だ。
2016年、仙台市の荒町にワンダーアートスタジオを設立。ホコリだらけの4階建ビルをみんなで掃除し、パステルカラーを基調としたカラフルなペンキで、壁や階段、トイレも塗装し大規模な改装を行った。今では、約40人の人たちが利用する。また現在、ここに通う障害のあるこどもたちの学校卒業後の居場所(仕事場)を準備中だ。
さまざまなバリアを取り払うというのが活動の信念だ。

病院にいてもどこにいても、心は自由に飛んでいける

活動の柱であるホスピタルアートは、幼少期の原体験がベースにある。祖父や叔父が医者であり、正月でも急患の人がくるとかけつけるその姿をずっとみてきた。障害のある人やニーズがある人に、アートの活動を届けるのはもはや「当たり前のような活動だった」という。
ホスピタルアートについての動画が紹介される。その地域は、南アフリカ、アメリカ/ニューヨーク、ポーランドにも広がり、一年間いろいろな病院をまわっている。主なプログラムは、「ハッピー・ドール・プロジェクト」。お手製の小さな人形を本人や家族、医療現場の人たちがつくるもの。発想の原点は、もともと子どもたちが外を眺めていることが多く、外に行きたいんだろうな、と考えたことという。
日本または世界に、人形が旅をしていくようなこともしている。つくったものは、本人の、家族の大切な思い出にもなる。100病院をこえる、3000人以上の人にアートの機会をつくりあげてきた。

*動画に書き出されていたキーワード
心をつなぐ、笑顔のリレー、ハッピー・ドール・プロジェクト
わらって、つくろう、みんなで一緒に
病院にいてもどこにいても、ハッピー・ドール・プロジェクト
心は自由に飛んでいける、世界でたったひとつの宝物、なんでもはなせる大切な友だち、大切な仲間

すべての想像力の原点は、「もし自分が○○だったとしたら」

千葉県のとある病院の話をしてくれた。
看護士長さん、筋ジストロフィの方、身体障害のある人もいた。プログラムのあと、病院の奥に案内されてとき、自分で何も動かせない、目もみえない、きこえない、ベッドに寝ていただけの人が大勢いた。あとで、日本国内には43,000人もの重度の心身障害のある人がいることがわかった。出会うこともない人が、病院の奥に奥に、こんなにもいるという事実に衝撃をうけた。いつのまにかご縁をうけて、ホスピタルアートの活動は、自分の大切な活動になったのだという。

もし、自分自身が、身体が動かない、手も動かない、みえない、きこえない、言葉を話せないことを想像したとき。高橋さんは恐怖を感じた、孤独感を感じた、宇宙のなかで、一人だけただよっているようなそんな感覚に陥ったのだという。「もし自分が○○だったとしたら」、そこに想像力を働かせることが、重度の障害のある人たちと向き合う時に重要な姿勢だという。

はじめは、コミュニケーションがとりにくい。
施設の職員等は、その人を知っているので、この方にはどんなサポートが必要か、わかると思うが、病院でのワークショップでは、はじめての人に何人にも出会うので、「どこがコミュニケーションできるきっかけなんだろう」と、とにかく探る。あらゆる角度から、あらゆる力で観察し、ふと、それがわかる瞬間がある。その「きっかけ」に働きかけると、反応したり、涙を流したりする瞬間がある。

*動画に書き出されたキーワード

たとえば
言葉を発することができずとも
その耳は聞くことができずとも
その瞳が何も映さない暗闇だったとしても
手が、腕が、使えなくとも
足が動かなくなったとしても
眠っているようにみえても
神経や頭脳に予期せぬ変化が起こったとしても
生きる、を輝かす!

重度の心身障害の人との日々
同時代にいるいとおしい同胞
色とりどりの色彩に瞳かがやく
精一杯 感激を伝える
戸惑いともにやわらぎ そしてうっとり
選べる楽しさをかみしめる
足でリズムを刻み表現することができる
とらわれていたものから心が開放されるかもしれない
心は大翼を広げ、天空を飛び回っているかもしれない
手で力強く大地をつかみ、腕で移動することができる
その瞳に喜びや悲しみ色を表現することができる
声を聴き、気配を感じ、何かを考え、感じているかもしれない
かすかに現れるその心の動きを一心に感じ取ろうと
いつも耳を済ませ瞳の奥をじっと覗く

愛だけではない。技術に裏打ちされた高橋流の支援術①

全国の国立病院で行われたワークショップの体験をもとに、支援のポイントの説明をしていただいた。

■ストレッチャーに載った方と描く
例えば、支持体をカーテンのように窓に貼る。
支持体は、かたちが変容できる素材がよく、患者に近づける、のばしたりまげたりする。
素材はやぶれやすいため、ターポリンという少し厚みのある素材を使うことも多い。

■感触を楽しむ
ぬるぬるした感触を楽しむために、洗剤入りの絵具を使う。
筆だと絵具がたれてしまう、ペンだと物足りないので、プッシュしながら絵具がでるペンを使う。

■協働を楽しむ
感染防止のカーテンに、家族、医療スタッフと一緒に描くこともある。
小さな支持体、それを集合させて、重ねてひとつのカタチ(例えば木)などにする。
大きな透明のカーテンをみんなのベッドサイドに持ちよってペイントする。寝ながら、足で描く人もいる。
完成後は豆球をともしてライティングし、ツリーに仕立てるなどをする。

■季節感を大切に、ときに空間の装飾を工夫する
秋には秋を感じる色やモチーフをつかう。
ベッドに寝ている状態の方には、天井に作品があると楽しいため天井に飾り、カーテンレールにあらかじめモビールのように吊ることを想定した支持体をつくりそれにペイントする。

参加者からの質問と回答を一部紹介します

質問:あらゆる感覚から向き合う想像力が必要というが、様子を瞬時に捉えて、コミュニケーションをつくる。それはいったい、どういう感覚からきているのか。
回答:あとで写真をみると、向き合っている人と私(高橋さん)はよく同じ顔をしている。どうしたらその人と表現できるきっかけがわかるんだろうと、その人をみているので、顔が鏡のようになっている。自分でも笑ってしまうが、その人をうつしている、みている、知りたい、どうしたいの?どの色なの?と全身で探っていくこと。

質問:材料、道具は重要だと感じた。絵画というと紙やキャンバスを準備してしまいがちだが、その人にあわせて材料を準備しているが、ほかにどんな工夫点があるか。
回答:場のつくりかたは大事。病院では、基本的にいつも同じ場所にいるからだ。リハビリや訓練とは違う、アートの時間はいつもと違うよという違いを伝える。
例えば、アロマを準備して良い香りがするなーとかを感じてもらう。いつもの薬品のにおいでなく、いい匂いがしてきたぞー、気持ちいいなーと感じてもらう。
また、音楽を流すなどの工夫もする。パンチのきいたもののときもあるし、環境音として水や鳥の声もある。何がいいかは、職員と話をして、決めていく。みえない、きこえない人も多いため、感覚をひらくためにどうするかを探っている。

質問:ギャラリーや公共施設に飾るのではなく、天井や病室に飾る。協働の力があふれてる。連帯の意味、価値はどんなとことにある?
回答:こうした活動は、たくさんの人がいないと成り立たない。保護者の期待感もあるし、支援者はよく人を知っているため、みえない、きこえない、とか髪をひっぱるのが好きです、とかその人に情報を伝えてもらう、それが大事。全体の空間のなかで、においや音も含め、みんなでわくわくしながら感じることが大事。連帯して、飾りながら、最後に完成物をみせる。みる人が、いる人が、居心地がいいことが成果物。

質問:同じ病院に何度も行くのか。参加者に変化はあるか。
回答:定期的に連絡が来る病院もある。参加者は度ごろにかわってくる。

質問:重度の子どもと制作している。柔軟性もあるので、回を重ねたら受け入れてくれる。
今度、成人と活動をするのだが、「はじめまして」のアプローチに何か参考になる方法はあるか
回答:できるだけ気持ちをよせる。人間対人間。どんなに重度でも、どんな障害でも。人間と人間がむきあうときは、ほぐれる、バリアはこえられる。気持ちだけ、知りたい、時間を過ごしたいしかない。
私(高橋さん)は、それだけで対応している感じ。一生懸命みていると、何かかわる。「あんたなんかとは何もしないわよ!」という雰囲気を出している人も、どこかでおちゃめな顔をすることがあり、その人にアプローチする接点を探し出している。

質問:どのくらいの時間で活動しているか。
回答:大体2時間。病院により1時間のときもある。全員と1時間は無理なので、参加者をわけて数回で全員と活動するときがある。

質問:福祉施設で活動している。今日のお話の様子は、重なる部分がたくさんある。いろいろな手伝い、それぞれ違う。どこまで作品を作るか。創作活動をどこまでお手伝いしていいのかということに迷う。職員が介入しすぎると、職員の作品になるのではないか。迷いがある。
回答:難しい問題ですね。何を目的とする活動なのか。個別の作品制作もあるが、1時間という時間のなかに協働や喜びの場を目指すということに、はっきり目的をもつのもひとつ。非日常をつくる、というのは入所施設ではあってもいいのかもしれない。何をする場なのか、を明らかにしておけば、誰の作品なのか、ということを問う必要はないのではないか。

質問:指の先にサックをつけていたが、それは、その場で瞬間的に道具を準備するのか。
回答:手は汚したくない、筆は握れないという人のための道具。指にさすだけの画材を使用している。
環境をつくるための大きな視点として、「道具」は重要!後半で、実際の道具の様子をみていきましょう。

画材や道具を使って実際に体験してみよう

まずは高橋さんからの画材と道具の説明がありました。
・指に装着する筆。力がなくともすうっと描ける 太い、細いと2種ある
・筆は短く切る場合もある。病院などではそれを持参するときが多い。
・ゲルマーカーは、あまり力がなくとも描きやすい。」
・寝ながら描くときに、チューブに入った絵具をにぎってもらって使う。ストレッチャーに載っている方も使用するときがある。





・石鹸をだすポンプに、絵の具を入れる。泡の状態になり、手に固着する。色を混彩することができる。
口に入れても安全な子ども用絵具などを選ぶことも大事。





・絵具をトレイにしぼり、あらかじめ好きな色を選ぶ。トレイの枠がバリアになる場合もあるため、透明のシートそのものをパレットがわりに使用することもある。

・ぶらさげる材料。ぶらさげると、ベッドサイドでも楽しい。小さいものか、やわらかなものなど。


・裏がシールになっているもの。はっぱ、ハートなどに切り、そこに絵具を塗る。


実際に参加者の体験がはじまりました!

・布に素手で絵具を塗ってみる。トレイの絵具を手にとり、布をつかむ、のばしてみる、などを体験する。


・絵具に白をまぜてパステル調にしてみる。裏面がシールになっており、あらかじめカットした紙に、指や指筆で彩色する。それをすぐに、壁に貼り協働作品をつくる。





・透明なシートに筆で絵具を塗ってみる、描いてみる。研修の日は、あらかじめ貼っておいた感染予防のビニールカーテンに筆で描く。

愛だけではない。技術に裏打ちされた高橋流の支援術②

参加者が身体を動かし、道具と画材を体感したあと、最後にふたたびまとめのメッセージがありました。

■場のつくりかたの工夫
五感を開き、心の開放(BGM、視覚的バナー、アロマ、触覚体験など)をうながすこと。

■材料や道具
変容できるものを活用する。小さな支持体、大きく動く支持体、吊ってゆれる支持体などなど。また、絵の具がこぼれず指が届く画材や容器等も活用しよう。

■個別の向き合い方
それぞれに違う状態に応じて接し、求めを感知しようとする力をもとう。

■作品展示や鑑賞の意味
喜びを共有し、連帯感を生み出す活動です。ぜひ、実施してみましょう。

【事後アンケート】
Q.研修のなかでもっとも大きかった学びの視点はどんなことでしたか。


・重度障害者の方々に合わせた画材
・これまでこども病院や仙台市内の障害者福祉施設にてワークショップを実施してきた際は個々人に合わせて手を動かし、造形体験の機会を設けてきましたが、施設職員と利用者のみなさんの対話や関係性づくりを目的にした協働ワークのニーズがあることを知れたことはよかったです。
・画材等知らないものも多く、実際の現場でもやってみたいと思いました。
・どんな重度の障害を持っていても、いろいろな道具等を使いながらコミュニケーションをとってアート活動ができることがわかりました。
・当施設で「作品を作る」といった活動の機会は多くありますが、積極的に活動に参加させる方もいれば、拒否があったり、すぐに飽きてしまったりといった方もいらっしゃいます。その場面、その環境に一緒に参加する事も活動・作品の一部ととらえることが出来れば、これからの支援の幅も広がっていくように感じました。貴重な研修、ありがとうございました。
・少しの彩色かもしれないけど、経験の少ないその人にとってははじめての感触、はじめての色の世界かもしれないという視点を支援する側が理解してあげなきゃ、とかんじました。
・一個人の作品を作るというより、楽しい、ともにその時を生きてる「場」を作るという視点
・福祉や医療の専門家と共にワークショップを作るということ

Q.研修での学びを具体的に生かそうと考えていることがあればおしえてください。

・障害のある方はもちろん、小さな子どもや高齢者が参加する際のワークショップに活かせそうです。
・なかなかどのように支援していいのかわからない利用者さんもいるので今日見た自由な感じのアートに挑戦したいと思います。
・利用者の方に色々な画材の提供を行いたいと思ってはいたのですが、自分の知っているものでは限界がありました。今回の研修で様々な画材を知ることが出来ました。今後も創作活動に生かしていきたいと思います。
・素材の違う紙などには描いてきましたが、大きなビニールをつかうのは真似したいと思いました。
・上記を踏まえて、皆で大きな作品を作る

レポート:柴崎由美子

バナー:障害者芸術文化活動普及支援事業(厚生労働省)
バナー:ABLE ART JAPAN
バナー:Able Art Company