終了・報告

SOUPの研修2020報告:みんなの「生きる」をうけとめる。/埼玉

開催日
2020年11月19日(木)
時間
10:30-12:30
場所
オンライン
案内役
工房集 宮本恵美さん、小嶋芳維さん、中村亮子さん
参加者
11名および1事業所(生活介護事業所)
アートをはじめたい障害のある人、重度の障害のある人による表現活動の意義と方法を学びたい福祉施設、文化芸術関係者
宮城県からは仙台市、石巻市、大和町、南三陸町、県外からは大阪府
テーマ
「どんな障害のある人でも受け入れる」。ここはまさに、いのちと個が尊重される空間です。
たくさんの「生きる」を受け止めてきたからこそ、その表現の現場には人を肯定するやさしく鋭いまなざしと、表現に昇華するまでのたくさんの試行やアイディアがあふれています。川口太陽の家からのライブ中継と、今年チャレンジしているという動画(工房集チャンネル)を通じて、重度の障害のある人たちと表現活動をするためのヒントを探ります。

概要紹介30分、現場見学ツアー60分、質疑応答30分

概要

宮本さんより、はじめにスライドを交えた概要説明。社会福祉法人みぬま福祉会は、35年以上前、障害が重いために行き場がない人たちに対し、「どんなに障害が重くてもうけとめる」ことを理念に開所した。今では、通所施設9カ所、入所施設3カ所、相談支援事業や居宅サービス事業などを通じ、埼玉県の300名以上の障害のある人を支援する。よりよく生きたい、という当たり前の願いをかなえるうちに活動が広がってきた。



そのうちのひとつの事業所である工房集は、地域に開かれた施設づくりをコンセプトに開所。今では、表現を支え、それを通じて社会に接点をもつ、法人のプロジェクトそのものの名称でもある。

見学ツアーは、生活介護施設(定員30名)「川口太陽の家」から3つのグループをめぐるものとなった。案内人の宮本さんたちは、管理棟から作業棟に移動し、携帯電話のカメラを通じて仲間たち(利用者)の様子を紹介した。

ひとつめのグループでは、5名の仲間たちの活動の様子や、なぜそのような活動にいたっているのかの背景が語られた。画面を通じてまるでその場にいるような臨場感がある。
ゆっくり部屋を歩きつづける、成宮咲来(なるみや・さくら)さん。スタッフは彼女の動きを静止することはない。でも、細いカラフルな銅線を渡し、片方の手でにぎってもらうという。半日に一回、彼女は(納得して)ポトンとそれを落とすのだが、その銅線は直径2~3センチほどの小さくてまあるいジュエリーのようになっているという。スタッフはそれを、「咲来さんの心から生まれおちたもの」として、「さくらハート」と名付け、アクセサリーなどに展開している様子が紹介された。カメラをもつスタッフと咲来さんは普段から信頼関係ができているせいか、カメラはぐっと近寄り、手元をみることができた。

ふたつめの訪問先は、車いすを利用している人や重度の身体障害の仲間たちの部屋だ。
お休みの日だったのにも関わらず、私たちの研修のために出勤してくれた金子慎也さん。重度の身体障害があり、コミュニケーションはもっぱら瞬きが中心のようだ。職員である船越美恵さんの左腕にからだを委ねていた。見学者である私たちも、画面ごしに挨拶をする。船越さんは、白い工作用粘土を一粒の団子ほどの大きさにちぎり、自分の右手と慎也さんの右手とを合わせてころころと転がす。ある瞬間に、慎也さんが粘土を握る。手の指に力がこもっているのがよくわかる。また少しだけ粘土を転がし、慎也さんは、また握る。船越さんは、その瞬間をのがさず、2回または3回それを繰り返す。「このぐらいでいいですか」。慎也さんが握った、陰影を刻んだ粘土の塊を、慎也さんにみせて確認する。慎也さんは、作品が展示されるときに大変喜び、自分の制作物に誇りをもっている人だという。一日に4個ほど、制作する。

みっつめの部屋には、入室したその瞬間から明るい声が響き、また縦横無尽に部屋を歩く人たちがいた。ある人は、ガムテープを長く長く引き伸ばしそれを床に敷き、ときに宙にほおってみせる。ある人は、瞬時に大きな筆で画用紙に線をひく。ある人は、自ら書いた文字の上に透明のセロハンテープを同じリズムを刻みながら貼りつづけている。そこで生まれる行動を、ひとつひとつ丁寧に観察し、それをなにか見えるかたちにしよう、行為を定着させていこう、そんな静かなスタッフの意志を随所に感じた。

宮城県の参加者のなかには、同じく行動障害のある利用者とともに、日々の活動に悩む方たちもいた。研修を通じ、工房集が発信する「生きていることは価値である」ということ、また存在を肯定しながら、ささやかな兆しのなかに、その人らしさを発見するということに触れて、ため息や感嘆の声をあげる人もいた。
宮城県をとびだして、工房集という先駆者たちの活動に学ぶ、オンライン研修の意義も改めて感じる一日だった。
(レポート:柴崎由美子)

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