終了・報告

SOUP の研修 2021 「第4回 ひろがる世界・ひろがる私〈美術館〉に行こう!」報告レポート

開催日
2021年11月11日(木)
時間
13:15〜15:15(受付12:45)
場所
塩竈市杉村惇美術館 [ Webサイトはこちら ]
〒985-0052 宮城県塩竈市本町8番1号
講師
阿部沙斗加(塩竃市杉村惇美術館学芸員)
1987年宮城県塩竈市生まれ。2010年宮城学院女子大学学芸学部人間文化学科卒業。東北歴史博物館解説員を経て2014年より塩竈市杉村惇美術館学芸員。地元ゆかりの若手作家の意欲的な活動をサポートする「若手アーティスト支援プログラムVoyage」やこども向けプログラムなど教育普及事業を担当。
歴史、文化豊かな港町・塩竈で、美術館がより身近な存在として地域に根づくことを願い活動中。
テーマ
〈いつでも、どこでも、誰でも〉自由に豊かな文化的体験ができることは、すべての人にとっての権利である。ミュージアムなどの文化施設は文化体験の宝庫。作品鑑賞で感じたことをことばや絵であらわし、自分のもののみかたや隣の人のもののみかたを共有すると、世界のモノの見方はぐんと広がる。教育普及に力を入れている塩竈市杉村惇美術館に行き、建築と常設展を通して鑑賞することの楽しさや醍醐味を味わうことをテーマとした。
参加者
会場:(1団体複数個人・進行運営含) 合計16名
宮城県の参加は、仙台市、多賀城市、塩竈市、利府町。多賀城市で表現活動に取り組む事業所「ソーシャルビレッジ仙台」と企画の構想段階から相談を重ねた。支援のニーズも増えている仙塩地区での、公共文化施設と協働し交流の機会とした。
当日の流れ
12:45開場
13:15 主旨説明、画像・記録についての諸連絡、講師紹介
13:25 建築ツアー 
13:45常設展示室へ移動、作家解説
14:00 作品鑑賞
14:25 チームごとの感想の共有
15:15 まとめ終了
配布物
美術館リーフレット、展示目録、チラシ、広報誌、記念ポストカード

まちの中の「居場所」として、美術館で過ごす

研修場所である塩竈市杉村惇美術館は、昭和25年建造の公民館分室を改装し、2014年に美術館として開館した。歴史のある貴重な建物であり、公民館以前にも小学校などとして場の長い記憶を有している。公民館と美術館の併設が大きな特色であり、一般に向けて各施設が開放され、さまざまな市民活動の場として日々活用されている。
 講師の阿部さんは教育普及事業などを担当する学芸員で、歴史や文化の豊かな塩竈のまちで美術館がより身近な存在として地域に根づくことを願い活動している。「この美術館を使用して市民活動が活発におこなわれてる背景は、場所自体がまちの中で長く大切にされてきたからなのでは」と場所を残し続けること・場所が残ることの意義について冒頭で触れた。
 美術館と一口に言っても館によって個性はさまざま。研修は、館内を回る建築ツアーから開始した。正面入り口外観、大講堂、中庭を、阿部さんの解説付きでじっくりと見学。スタートからさっそく「朝ドラの舞台っぽい!」と参加者の反応もあり、建物に用いられている塩竈石が昭和期に採れたものと解説が入ると、「周辺で使われている石や街中で見かける蔵も同じ塩竈石?」と質問がゆるやかに交わされていた。

講堂にはアーチ型の特徴的な天井が広がる。全員でいっせいに拍手をして残響を試したり、ステージに上がってみたりと空間を楽しみながら歩く。子どもだった頃に講堂で発表会をした経験がある、という参加者からは、当時の様子やエピソードも語られていた。建物の魅力を味わい、どのように使われてきたかを知ることで、文化施設をより親しみやすく感じ、距離が縮まった。

魚は何匹いるのかな?あれ、目としっぽの数が合わない!

後半はいよいよ作品鑑賞に突入。常設展示室に所蔵されている杉村惇画伯の静物画作品を複数人で鑑賞することとした。今回は《鱈》チーム、《焼いた魚》チーム、《ランプ》チームの3チームにわかれ、チーム内で自分の感じ方を話し、他の人の受け取り方を聞き、会話を深める。チーム鑑賞後には3つのチームで話されていた内容をそれぞれ発表した。
◆《鱈》チーム
探偵団のように鑑賞していた様子がユニークで、会話の盛り上がりや着眼点、鮮度の話題には阿部さんからも驚きの声が。
(以下、会話の内容メモの抜粋)
・まずは力強いな、という印象。黒と黄色のコントラストかな、実寸大じゃなく大きく描いているからかな
・魚がいるけれど、それぞれ目の色が違うよねと気づいた。じゃあ目がいくつあるのかな、何匹いるのかなと目と尻尾の数をみんなで数えたけれど、どうしても数が合わないね、ってことになりました
・絵の上は白、下は灰色が強いけれど、鮮度をあらわしてるのかもしれない。絵自体も全然色褪せていなくて、昨日描いた作品だと言われても納得しちゃう 



◆《焼いた魚》チーム
魚と他のモチーフの関係性から、絵の時間帯や和洋の雰囲気を想像。参加者それぞれの視点で意見が出ていた。

・皮の焼き目がこげついた感じが美味しそう。食卓がイメージされているけど、朝食?夕食?
・夕食なんじゃないかなと思った。他の絵よりも黒が濃い感じと、お酒があるから
・焼いた魚って聞くと和食をイメージするけど、パンがあるし、洋食。1番好きなのはトースター
・展示室の奥に屋根裏部屋のようなアトリエの再現があって、気になった。古風な物がいっぱいあって、本当に使えるものじゃないか?そういうものがあって心が和んだ
・外国っぽい印象を受ける


◆《ランプ》チーム
ランプが描かれた《白い机の静物》という作品を鑑賞。描かれたモチーフの実物も見ながら、使い込まれた時間を巡る話題も。

・この魚は目が光っていないし、干物かも
・最初はくるみだと思ってたけど、隣にコーヒー豆挽きがあるからすごく大きいコーヒー豆だったりして
・魚には絵の具をたくさん使ってるのに、オイル漬けのらっきょう?は薄く塗った絵の具をくり抜いてる。描き方がちがう。背景も絵の具が厚くて、止まってるはずなのに動いてるように見える
・ランプとビンで透明感のちがいがある。テーブルの角など、使い古しているものを丁寧に描いてる 
・これらしき!というランプを奥で見つけたけど、形が少しちがう?見たままに描いてるわけじゃないのも不思議

誰かとみて気づきが広がる、表現もみられてこそ開かれる

 チームで鑑賞の感想共有では、「普段は鑑賞というとひとりで静かにみることが多いけれど、誰かと見てみて、自分では気づかなかったような発見があった。不思議がいっぱい引き出された」と参加者からのコメントが出た。美術館に来るっていいなあ、好き、というラブコールも。
 今回は地元にゆかりのある美術館で鑑賞を実施したが、後日回収したアンケートでは、海外作品などの多様な表現を鑑賞したいというニーズがあることもわかってきた。表現を鑑賞する行為は、表現をつくったり発表したりする行為と同様に豊かで重要である。鑑賞体験が充実することで、ものをつくる循環もより生まれやすくなるのではないだろうか。
 鑑賞の合間には、学芸員の阿部さんから、参加者の言葉への応答や作家や制作背景にまつわる話が自然と交わされていた。地域で研究・活動する学芸員やスタッフと出会うこともまちの文化施設へ行く際のひとつの起点となる。阿部さんは最後に「作品鑑賞はどのように見てもいい自由な行為。美術館は作品を見るだけではなく、さまざまな活動がある場所。目的がなくても、いつでもふらっとこれる場所」と、市民の居場所のひとつとして美術館があることを参加者に向けて話していた。

【事後アンケート】
Q.鑑賞のなかでもっとも印象的だったことはどんなことでしたか?

・グループに分かれて、作品を見て意見を出し合う時間が、最も印象に残っています。こんなにじっくりと1つの作品を見る機会もなかなかなく、他の方々の意見も聞くことができ、様々な角度から作品に触れることができました。
・みるもの全てが印象深く良い体験でしたが、なかでも講堂の建物の構造が独特で印象的でした。また3つのグループにわかれて1つの作品を、ランプチームでみなさんそれぞれの感じ方や共感できた事をワイワイ雑談しながら楽しめた初めての体験で良い思い出になりました。
・今一番興味ある施設はシンガポール。文化施設を訪れたいです。
・「焼いた魚」と「ビンテージのミシン」。ミシンは実際に使っていたものかと思われます。
・すべて、すばらしく感動しました。美術館に初めていったから、また来てみたいと思いました。
・お魚一つ一つの描き方にも特徴が表われていて、キレイだった。海外への憧れを持っている感じが伝わってきた。
・3グループに分かれ、それぞれテーマの異なる作品について自由に話し合う時間が印象に残っています。同作品を鑑賞していても初めに感じる印象や感想が異なり、作品に対するイメージが膨らんでいき、一人で鑑賞する時とは異なる作品鑑賞になりました。
・学芸員の阿部さんのナビゲートで美術館の建物の紹介を受けられたこと。作品鑑賞で、複数人で1つの作品についてじっくり鑑賞し、感想をかわし合った経験がとてもすばらしかった。皆、1人1人視点が異なり、大変おもしろかった。何より、参加者全員が一体となって鑑賞を楽しんでいた事が本当に印象に残りました。

Q.鑑賞会を実施するとしたら、どんな美術館や博物館、文化イベントに行ってみたいですか?

・海外の方の作品がある美術館にも行ってみたいです。
・海外のアーティストの作品鑑賞、近代美術展、ダンス等の舞台公演
・「夢メッセ」や「仙台ワッセ」、仙台の大手の会館に「ジブリ」とか「ディズニー」とか、「スターウォーズ」のかい画を見に行きたいです。それから、もけい も。
・自分にプラスになることあるから、行ってみたいです。
・絵画の作品展はもちろん、物、建造物などの古くからあるものを鑑賞するイベント等に参加してみたいです。

Q.自由記述欄

・美術館スタッフさんをはじめ参加された皆さんと体験し、楽しい雰囲気の中、時間を過ごせた貴重な体験ができました。ありがとうございます。また機会があれば参加したいと思います。
・作品を鑑賞するだけでなく、話し合い、共有することで芸術に対する考え方のみならず、コミュニケーションなど得られるものが多くありました。
・利用者さんとスタッフで参加させていただきました。普段、事業所内のみでの活動だけでは決して経験できない、貴重で楽しい時間をありがとうございます。特に、利用者さん皆、とても喜んでおられました。利用者さんにとっては、「新しい経験」「皆で体験し、共有すること」が大きな成長につながると、私は考えております。今後とも是非、すてきなイベント企画がありましたら、参加させていただきたいと思いました。


レポート:佐竹真紀子

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