
終了・報告
報告 第3回研修「ミュージアム運営のためのアクセシビリティ研修」
- 開催日
- 2025年12月18日(木)
- 時間
- 13:00~16:00
- 場所
- 山形美術館3階多目的ホール
- 講師
- 伊東 俊祐(いとう・しゅんすけ)国立アートリサーチセンター 客員研究員/國學院大學文学部 助手
先天性の全ろう。國學院大學文学部博物館学研究室で研究教育に携わるとともに、国立アートリサーチセンターのアクセシビリティ事業を担当。博物館学を専門とし、障害者の生涯学習や文化芸術に関わる研究を進めている。 - 概要
- 独立行政法人国立美術館 国立アートリサーチセンター(以下、NCAR)がミュージアム向けに提供する研修を招聘(主催:文化庁、独立行政法人国立美術館)。アクセシビリティを進めるうえで重要なキーワードである「合理的配慮」と「情報保障」を軸に、学びを深められる内容で、オンライン学習システムを通じて動画教材より、基礎的な内容を学ぶ「eラーニング」と、対面にて館内外のミュージアム従事者と共に議論する「対面ワークショップ」の2段階のプログラム。
このうち、「対面ワークショップ」の企画運営に、山形県のセンターと広域センターが協力しました。
共催:やまがたアートサポートセンターら・ら・ら(以下、山形県支援センター)
協力:公益財団法人山形美術館、山形県(県民文化芸術振興課、生涯教育・学習振興課、障がい福祉課)、障害者芸術文化活動普及支援事業 南東北・北関東広域センター
- 参加者
- 山形県内の博物館、美術館、生涯学習施設、劇場など5館から合計18名
職種は、文化施設の経営監督者、文化施設を管理する自治体等の行政系職員、学芸員、大学教員等
主な内容
(1)レクチャー<合理的配慮・情報保障について>
(2)利用者の話をきく:各地域の当事者をゲストとして招き、体験談をきく
(3)グループワーク:グループに分かれて 2 種類のワークをおこない、館種や職種を超えて、アクセシビリティについて議論
① 合理的配慮の対話ロールプレイ
② アクセシビリティマップづくり
(4)ふりかえり・まとめ
プログラムの詳細
(1)レクチャー<合理的配慮・情報保障について>
講師より、あらゆる人が安心してミュージアムを利用でき、文化的な愉しみにアクセスできる機会を充実させることを目的とした本研修の主旨を説明。今後のミュージアム運営において求められるアクセシビリティ・社会包摂の取り組みを始めるための、基礎的な知識を得ました。
(2)利用者の話を聞く
各地域の当事者をゲストとして招き、体験談をきく時間。
山形県支援センターの推薦で、車椅子ユーザである平間みゆきさんが、当事者ゲストとして参加。ミュージアムの利用者から、その体験や思いを具体的に聞くことを意図しています。
聞き手の問いに応じて、平間さんが語ったことは以下のような内容です。
①ご自身の身体障害について
車椅子または松葉杖を使った生活で、主な移動は車。日常生活では、高いものが取れない・届かない(低視線での活動)、段差があると乗り越えられない(キャリーケースがひっかかるところは車椅子もひっかかること)。
②ミュージアムを含め、外出時に行く際の障壁について
行くまでがハードルが高く、主に車での移動になるため駐車場の位置、入り口、エレベータ、多目的トイレ、展示会場のチェックが必須。特に、山形県では、冬場の雪が大きな障壁で、駐車場があっても雪かきがされていなければ「1センチも近づけない」。雨や雪だと、出かける気持ちも萎えてしまう。
・一方で合理的配慮の経験として、病院での体験を語った。乗降場と駐車場が離れており、対話を重ねた結果、乗降場で平間さんは車を降り、病院側が駐車場まで車を移動するという措置が取られている。
・平間さんの場合、要望することとして、入り口の2〜3段の階段ならば人による支援、スロープによる支援、2階3階であればエレベータ、トイレは多目的トイレであること。トイレがミュージアムにない場合でも、近くにあればOKで、例えば市役所などの公共の場に多目的トイレがあれば、それを情報として提供することも「合理的配慮」の方法。
・ミュージアムでのこれまでの体験として、パンフレットは高いところのものは取れない、混雑していると作品を見ることが難しいばかりでなく、周りの人にぶつかってしまうため、自分はそれに気を取られてしまう、展示ケースに入っている資料は見ることを諦める、キャプションも高い位置にあると読むことを諦める。
・受付などで自分には話しかけられない経験がこれまでも何度もあったことを紹介し、自分のことを「透明人間」と例えた。「私と話してください。」と伝えたこともある。
・入場料の考え方についても触れた。平間さんは、「いろいろな考え方がある」ことを前提に、介助者が必須な障害のある人の場合は2名で1名分の入場料という考え方は推奨してほしいとのこと。ただし、タレントのコンサートなどでは、健常者と同じ入場料を払っており、その納得の理由として、最初から最後まで1名がアテンドについていること、サイトラインが必ず保障されているというサービスの現状や基準についても紹介した。
聞き手からは、ミュージアムのような社会教育施設の利用と、民間のエンタメ(趣味・娯楽など)のサービスの利用とは考え方を使い分ける必要があるかもしれないこともコメントされた。
・全体を通じて、「物理・情報・意識/心理・慣行/制度」のバリアの視点についても話す
・平間さんは、このような体験を話しながら合理的配慮に関するレクチャーを行ってきたり、山形新聞にも年間10回寄稿したりしていることを紹介し、参加者にはより身近で心強い相談者としても役割を持っていることを伝えた
③文化体験の意義について
「もっと文化体験をしたい。したいです!!」と笑顔で主張。「だれかと感動を共有できることがとても好きです。感動を分かち合えることが好きです」、「芸術作品はその場で生のものを一緒に見て、いいねと感動を分かち合えること、居心地がいいこと、空間そのものを楽しめることも醍醐味」と語る。
ミュージアムにあるカフェやレストランの利用についても楽しみとし、「自分は障害者であるとともに、シニア・高齢者になる。これからどう生きるかというときに、芸術文化体験は、心の豊かさや人生の豊かさにつながる」と話を閉じた。
④質疑応答
「山形のご当地の事情、気質的に『要望』が出ない土地であること、それについてどうしたら良いか」という質問があった(東北芸術工科大学の教員)。平間さんは「最近は、何かありますか。何かお手伝いすることはありますか。とだいぶ声をかけてくれるようになった。声がかけにくいハードルを、どう互いに超えられるかだと思う」とした。
講師の伊東さんも次のように語った。「聞こえない人の場合は、一概には言えないが、情報を知ることのハードルが高い。人によっては電話をするのが難しく、あるいは聞くことが億劫であったり、メールでのやり取りも丁寧な文章や礼儀正しい文章を意識してしまい、そこに時間や精神的な負担がかかる場合がある。問い合わせすることそのものにハードルを感じる方もいる。また、自分が話している発音が正しいのかわからない場合もあるし、外国人によく間違えられることもある。コミュニケーションすることそのものに負荷がある。口語、音声認識、手話など方法は一つではないので、なるべく多様なものをコミュニケーションの手段として認識してほしい。これこそも、対話。例えば、友人や手話通訳の方など聞こえる人と一緒に受付に行った時、受付の人が聞こえない私ではなく一緒にいる聞こえる人とだけ会話をしてしまうこともある。専門的な用語で『第3者返答』というが、こうした事例はよくある。一番大切なのは、障害者としてではなく、一人の人間として、一人の市民として尊重してもらいたい」。

(3)グループワーク
①合理的配慮の対話ロールプレイ
・休憩後に講師から、eラーニングの振り返りの説明があり、ふたつのワークの説明と、その共有方法(1チーム5分✖️3チームの発表)を説明しました。
・次に、伊東さんがハンドブックIさん役(実は本人エピソード)、山形美術館の学芸員がミュージアム側の人としてロールプレイを行いました。聞こえないIさんを伊東さんがやることで、台本通りではあるのですが、とてもリアリティがある見本となりました。
・3人でグーチョキパーを出して、「障害のある利用者」「ミュージアム職員」「観察役」に別れてロールプレイを行いました。
・ある一つのグループは、「障害のある利用者」は「聞こえにくい人」のケースでした。主たる主訴は、ギャラリートークを耳から聞くことができないため、情報保障を求める要望でした。ミュージアムの方が「資料を準備するようにしたい」と回答しましたが、当事者役の人が「自分は学芸員の話をできる限り、参加者と同じ条件でライブで聞いてみたいと思っている。音声認識アプリを活用して参加できないか」と切り返しました。ミュージアムの方も少し戸惑うような反応でしたが、その後、冷静に、「音声認識アプリについて調べ、提供可能かどうか取り組んでみたい」「当日はぜひ受付に声をかけてほしい」と応答しました。
講師が、ろう者である伊東さんであったこと、研修の間も音声認識アプリにより講師への情報保障の様子はしっかりと公開されていたことで、それを体験した参加者ならではの対話だと感じました。
②アクセシビリティマップづくり
・「車椅子ユーザー」「聞こえにくい人」「聞こえない人」の三つのグループに分かれました。
・大きく「来館まで」「来館してから」「鑑賞体験」の3つのステップの中で、障害のある利用者が実際に困ったり、モヤモヤした体験がすごろくのコマのように表現されており、これを「要望」とした場合、ミュージアムの側はどのように対話し、また合意のための合理的配慮を行うか、を考えていくワークです。
ロールプレイの時間と、同じ3人組がコミュニケーションを図り、温度が上がってきたところでこのワークに入ったので、積極的に取り組んでいました。
・参加者が一通りアイディアを出した後に、講師の伊東さんやゲストの平間さんが、経験談などを話すなどして、合理的配慮に対する思考を巡らす時間となりました。30分ぐらいしかなかったため、全てのモヤモヤポイントに応えていませんが、それもよしとして、あらかじめゴールを設定しました。
・「車椅子ユーザー」「聞こえにくい人」「聞こえない人」の3グループが、5分程度ハイライトを紹介し、そこに平間さんと伊東さんが1−2分ずつ講評を加えました。

(4)ふりかえり・まとめ
参加者に事前購読が求められていた教材『ミュージアムの事例(ケース)から知る!学ぶ!合理的配慮のハンドブック』をテキストにして、「ミュージアムと人権をめぐる法律」「公平と平等の概念」などについての振り返りがありました。
https://ncar.artmuseums.go.jp/reports/d_and_i/accessibility/post2025-941.html
最後に、「明日から取り組むアクセシビリティ」を一人ひとり、名札の裏に書き出し、活動していこう!というポジティブな雰囲気で研修が終了しました。
特記
・ろう者である講師への情報保障とその効果
YYアプリを使用し、その文字表記をディスプレイ1台に流した。Wifiの環境設定は事前打ち合わせで確認できていたため、美術館とうまく連携できた。冒頭、講師の伊東さんは自己紹介で、自分の聞こえのこと、情報保障の展開(手を挙げる、名前を言ってから発言する)について具体的に説明した。これにより、聴覚に障害がある人が、手話以外のコミュニケーション方法を駆使すること、また対話をどのようにして行うかなどをリアルに感じ取ってもらっていた。
・資料提供
NCARから国内外の資料が設置された。研修後も熱心に閲覧していた人が多かった。

・当事者ゲストと仲介者である障害者芸術文化活動支援センターの役割
平間さん執筆の山形新聞の記事は「日曜随想」。これによると、平間さんの生い立ち、職務上のキャリア、社会活動がよく理解できる。山形の障害者芸術文化活動支援センターは、これを把握して平間さんを推薦した。研修の企画者と、地域の当事者ゲストの見事なマッチングが研修を充実したものにしていたと思う。
・山形美術館を中心とした山形県内のネットワークの存在
この研修は、もともと令和6年度に厚生労働省の障害者芸術文化活動普及支援事業のアプローチから実践されていたネットワークをもとに、令和7年度はNCARの企画を活用する流れに至っている。そこで、山形美術館(民間主導の公益財団法人が運営)を核・会場にしながら、これまで障害のある人のアートの展示を行ってきた県内のミュージアムや文化施設のネットワークが集まった。また令和6年度に続き、文化施設を設置する山形県教育局生涯教育・学習振興課、新たに設置される山形県立博物館とその設置者である山形県観光文化スポーツ部県民文化芸術振興課が参加していることも意義がある。令和7年度は、打ち合わせにより、県内にある大学でワークショップやファシリテーション、博物館学にかかる職員(教員)にも声をかけることとし、多様な文化施設や専門家の参加が実現した。
・打ち合わせの重要性
NCAR講師、現地のホスト、利用者ゲスト、当日のサポートチームは、オンラインでの顔合わせ1回、当日の昼食休憩を兼ねた交流、直前までの確認を、リラックスした中にも徹底した。このコミュニケーションは、研修の雰囲気や成果に影響したと感じる。

文責:柴崎由美子(南東北・北関東広域センター/NPO法人エイブル・アート・ジャパン)




