終了・報告

【レポート】出張ワークショップ(きおっちょら+はるのひ文庫)

はじめに

NPO法人エイブル・アート・ジャパンでは、障害のある人とない人がともにつくる人形劇の活動「みんなでつくるよ広場の人形劇!」を、人形劇団ポンコレラの工藤夏海さんをファシリテーターに2018年度から行ってきました。人と人との間に人形があることで生まれるコミュニケーションや、さまざまな人が集まり即興的に起こる出来事の豊かさを伝えていきたいという思いから、2024年3月に、約5年間の活動の記録をまとめた[冊子]を制作しました。これまで参加者募集型の活動を行ってきましたが、2024年度から、その記録冊子を片手に創作や表現に関わる活動機会の少ない福祉事業所などに出向き、出張ワークショップを開催してきました。今年度(2025年度)は、2ヶ所で実施しました。
このレポートでは、2024年度に続いて開催した「自立訓練(生活訓練)事業所きおっちょら」「就労継続支援B型事業所はるのひ文庫」の合同でのワークショップについて報告します。
*2024年度のワークショップレポートは[こちら]

ワークショップの概要

実施場所:自立訓練(生活訓練)事業所きおっちょら(仙台市青葉区)
日時:2025年11月17日(月)10時30分~12時
参加者: きおっちょら利用者3人、就労継続支援B型事業所はるのひ文庫利用者2人、きおっちょら職員4人、はるのひ文庫職員1人
ファシリテーター:工藤夏海(美術家・人形劇団ポンコレラ) 
コーディネーター:正木千尋、髙橋梨佳(エイブル・アート・ジャパン)

打ち合わせやヒアリングの様子

事前に実施先の職員の方々と打ち合わせをおこない、今年度から新しく通い始めた利用者さんの様子や、昨年度のワークショップで見えてきた一人ひとりの好きなことや特性を共有しました。その中で、ゼロから創り上げる即興劇よりも、あらかじめストーリーの大枠を用意し、そこにみんなで肉付けしていく形がよいのではないか、という話になりました。
そこで、ファシリテーターの工藤夏海さんは、その日の天気予報を覚えて口ずさんでいた利用者さんの姿をきっかけに、「天気相撲」というシンプルな題材を考えました。さまざまな天気が登場し、相撲で勝負をするという内容です。
また、職員の中にピアノ演奏ができる方や歌が好きな利用者さんがいることから、最後はみんなで歌って終わる、という方向性で構成することになりました。

ホワイトボードの文字と、虹と太陽の写真

当日の様子

当日のスケジュール
10:00~ 準備
10:45〜 挨拶、説明
10:55〜 役割を決める
11:05〜 役の準備
11:25〜 上演
11:40〜 みる・振り返り
12:00〜 終了

10:00~ 準備
到着が遅れた参加者を待つ間、職員がキーボードでジブリなど普段みんなで歌っている曲を演奏してくれました。なにもしない時間が不安になる利用者さんへの配慮もあり、自然とみんなで歌い、場が和みました。
ファシリテーターの工藤さんからは、事前の打ち合わせに参加していない職員に向けて、ワークショップの内容や目的、目標を記した紙を用いながら、「今日は利用者と職員という日ごろの役割から少し離れて、一緒に人形劇をつくる仲間として楽しみましょう」と伝えました。

10:45〜 挨拶・説明
一人ずつ名前を言って自己紹介をした後、この日にみんなでつくる人形劇「天気相撲」の内容について、工藤さんから説明がありました。「雲の強みは何だろう?」など、役のイメージを想像するヒントを伝えていました。
ホワイトボードの前で参加者に説明するファシリテーターの工藤さん
▲ファシリテーターの工藤夏海さん

10:55〜 役割を決める
自発的にやりたい役を選んでもらうため、工藤さんがそれぞれの天気の役をデモンストレーションし、イメージを共有しました。参加者は、それぞれやりたい役に手を挙げてくれました。また、音楽を担当したい人や、職員にも役についてもらいました。
ビニール紐でできた雨の人形を手に持って天気のイメージを共有する工藤さん
▲天気のイメージを共有する工藤さん

11:05〜 役の準備
それぞれの役で使う人形や小道具にクレヨンで色を塗ったり、セリフを考えたりしました。だんだんと緊張がほぐれ、お互いにつくったものを見せ合いながら「うまい!」と声を掛け合う場面も見られました。
参加者が白く塗られた段ボールにクレヨンで雨や虹を描いている様子
▲雨や虹をつくる

ビニールでできた風の人形でセリフや動きの練習をする参加者
▲風の練習

11:25〜上演
一度練習をしてから本番を行う予定でしたが、練習の途中からみなさんが渾身の力で演じている様子が伝わってきたため、そのまま本番という形になりました。
行司役を買って出た職員の進行により、天気役の出入り(出ハケ)をサポートしながら、勝負を盛り上げました。
太陽役の方は語尾に「〜ギラ」をつけたり、風役の方は「ヒューララー」など、自分で考えたセリフを発していました。楽器担当の方は、雷のシーンではタンバリンを大きく鳴らし、小雨の場面では音を小さくするなど、強弱によって場面の変化を表現していました。
また参加者が持ってきた空き箱のロボット人形も、劇の中で活き活きと登場する姿がありました。 

太陽と雲が対決し、行司が間に入って劇をする様子
▲上演の様子(太陽と雲の相撲)

劇に出演した全員が横一列に並び、虹の歌を歌う様子
▲上演の様子(最後は全員が登場し、虹の歌を歌う) 

11:40〜 みる・振り返り
職員が撮影した上演の映像を、プロジェクターを使ってすぐに鑑賞しました。自分や周囲がどのように動いていたのか、起こった出来事を映像でみて振り返ることで、「こんなふうに見えていたんだ!」という発見があり、会場は大いに盛り上がりました。また、映像をみている間、役のセリフを言いながらもう一度演じるように身体が動き出していた人もいました。
その後、感想をシェアする時間では、参加した利用者さんから、「セリフを考えるのが大変だったけど、楽しかった。」「虹の役は緊張しました。」といった声がありました。

照明を落とした部屋の中で壁に投影された記録映像を見ている様子
▲上演の記録映像をみる

記録映像をみながら風役の参加者が体を前のめりにしている様子
▲記録映像をみながら身体が動き出す参加者の様子

12:00〜 終了

実施先の職員の声

「みんな自由で、セリフもよくてびっくりした」
はじめてワークショップに参加した職員からは、「みんなの秘めた表現力が解放されていた。考えながら演じていたのがすごかった」という声がありました。
職員が行司役を担い、周囲を見ながら軍配を上げたり、利用者にアドリブで勝った感想・負けた感想などを聞き出したりする場面もありました。そうした姿を見て、職員間でも「そんな一面があったのだと気づきいた」という話がありました。

「はじめてのことが苦手な人にとって、最初に得意な工作の時間があったことが、落ち着いて参加できた要因だと思います。それがあったからこそ、劇にも楽しく参加できていました」
「人の真似が得意な利用者さんは、今回は役のイメージが湧きにくかったのか楽器を選択していましたが、何度か体験していくうちに、役にも挑戦してみたくなるのではないかと感じました」

ファシリテーターより(文:工藤夏海)

今回は、きおっちょらやはるのひ文庫に通うみなさんとスタッフのみなさんの顔を思い浮かべながら、ワークショップの内容を考えました。一つの劇をみんなで作るのは難しいかも、という意見も打ち合わせの時に出たのですが、「セリフや動きや展開が多い劇」にしなければできるかもしれない。2回目のワークショップだし、とチャレンジした結果、とても良いワークショップになりました。説明から役決め、道具準備、セリフ決め、音決め、舞台作り、練習、上演、振り返りまで、普通は1時間半でできる内容ではないです。が、1時間半で力を合わせてやり切った。きおっちょらは毎日工夫したプログラムを組まれていて、通う方は日々様々なことを体験しておられます。おそらく、その日々の活動で協力したりその場で考え作り上げる経験が、わずか1時間半での人形劇創作と上演を可能にしたのだと思います。私たちの中でも、何度か訪問しお話を伺ったり通う方と交流する中で、きおっちょらのみなさんとなら作れる、という自信が生まれていました。その場にいる全員がそれぞれ好きなことを反映させながら、楽しんで創作し、堂々と表現していたと思います。

おわりに

ストーリーの大枠の流れはあっても、細かい部分はみんなで相談しながらつくることができた人形劇。太陽や風など各天気の役と、相撲の行司役、音で天気を表現する楽器隊の中からやりたい役を選んだり、上演では勝ち負けのストーリーやその天気ならではの動きとセリフを考えたりなど、その人自身の選択や表現がいろいろな場面にあらわれていたように感じました。実施先の職員さんからは、自分たちのためにつくってもらった今回の台本を使って役を変えてまたやってみたいという声がありました。普段の活動でもまた楽しんでもらえたらうれしいです。

レポート:正木千尋、高橋梨佳(NPO法人エイブル・アート・ジャパン)

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