終了・報告

【報告】シンポジウム「いまここで起きている」

開催日
2025年01月12日(日)
時間
13:00-16:00(受付12:30)
場所
水戸市民会館スタジオ1、2(住所:茨城県水戸市泉町1丁目7-1)
参加者
75人
参加費
無料
開催概要
令和5年度から、支援センター担当者が、南東北・北関東広域センターを対象地域として「出稽古」に行くことを奨励しています。自組織の支援センターに不足している活動や施策について具体的に学ぶ場としています。
さて、出稽古でみた「障害のある人の芸術文化活動」の世界とは?

1.「『出稽古』を通じた支援センターの今」
キーワード:表現の発掘・評価、異分野連携(生涯学習・教育・経済活動)、県内の市町村との連携、障害者福祉施設へのアウトリーチ事業ほか

登壇者:
・宮城県支援センター
障害者芸術活動支援センター@宮城(SOUP) 高橋梨佳
・山形県支援センター
やまがたアートサポートセンターら・ら・ら 武田和恵
・福島県支援センター
はじまりの美術館 小林竜也
・栃木県支援センター
とちぎアートサポートセンターTAM(タム) 五味渕仁美
・群馬県支援センター
群馬県障害者芸術文化活動支援センター こ・ふぁん 吉田征雄・原 風香

2.「いばらきで、今起きている」
令和5年度から設置・運営されている茨城県の支援センターの活動に加え、茨城県内の多様な活動の情報交流を行います。これにより、今後、茨城県の支援センターの「あったらいいな」をみなさんと語り合います。

登壇者:
・茨城県支援センター 茨城県 福祉部 障害福祉課 額賀博美 
・社会福祉法人征峯会 小野瀬順子
・NPO法人 チア・アート/筑波大学 岩田祐佳梨

進行:
・柴崎由美子(NPO法人エイブル・アート・ジャパン)

コメンテーター:
・小堀幸子(NPO法人ちいきの学校)
・ミヤタユキ(ROKUROKURIN合同会社)

企画・運営協力:ROKUROKURIN合同会社
協力:茨城県、NPO法人ちいきの学校

●報告レポート

このシンポジウムは、厚生労働省が文化庁などと協働しながら、障害のある人たちが芸術文化活動ができる環境を、全国につくるために推進している事業の一環として行われたものです。全国で7つに分かれているブロックのうちの一つ、南東北・北関東ブロックの支援センター職員から、支援センターがあることでどんなふうに障害のある方の現場や活動環境が変わっていくのか、についての活動報告、そして、茨城県がさらに飛躍していくために必要な仕組みや活動について、会場の参加者とセッションも行われました。

1.「出稽古」を通じた支援センターの今

先進5県の支援センター担当者が、活動報告と課題、他県に出稽古し具体的に学んだことなどを紹介しました。

(1)福島県・はじまりの美術館 小林竜也
出稽古先:群馬県
テーマ「県内のハブとしての役割・市町村連携」 
群馬県は支援センターが3法人で運営されており、県とのミーティングが綿密で、コーディネーターのフットワークも軽く、もともとあるものを活用した展開が特徴的であること、具体例として道の駅まえばし赤城内の「SHOP CAFE Qu」など、誰でも立ち寄れる場所がハブとなっていました。
コメント(柴崎):福島県は「はじまりの美術館」という拠点が有名だが、一方で広域の支援に課題があり、群馬県の全域をカバーし自由に動くコーディネーターの存在や、自立支援協議会への参加などを通じて、支援センターの存在を地域に広報していく活発な動きが参考になったのだなと感じました。


(2)宮城県・障害者芸術活動支援センター@宮城 SOUP 高橋梨佳
出稽古先:山形県
テーマ「障害者福祉施設へのアウトリーチ事業」 
令和5年度は「栃木県障害者芸術展Viewing展」の設営や打ち合わせを見学し、出展する個人や団体が連携して展覧会をつくるプロセスを学び、令和6年度は山形県3箇所(多機能型事業所ふれんず、就労継続支援B型事業所スローワーク新町、わくわく生活介護事業所)での、アートと福祉が出合う場づくりについて、コーディネーターの存在や役割、発掘、関係づくりなど、悩みに寄り添うかたちのアウトリーチを学んできました。
コメント(柴崎):山形県の取り組みは、仙台市のような都市部の参加者募集型で行われるオープンアトリエとは違い、まだアートに触れていない方へプログラムやアーティスト、資金を届けるアウトリーチという方法。仙台市以外での活動の活発化に多くの学びを得られたのではないかと思います。


(3)群馬県・群馬県障害者芸術文化活動支援センター こ・ふぁん 原 風香(NPO法人 工房あかね)、吉田征雄(NPO法人あめんぼ)
出稽古先:宮城県
テーマ「異分野連携」 
群馬県はNPO法人と一般社団法人の3法人による運営。仙台市のコンソーシアム会議でのアクセシビリティ、宮城ART ART WEEKにてコンセプト表示のわかりやすさや人員の確保、ネットワークを活用した広報などについて学んできました。始めたばかりで肩に力の入った支援員も多いので、リラックスした関わりも課題となっています。
コメント(ミヤタ):群馬県は3法人で議論、対話が常にされているところが強みです。宮城県は教育・文化・スポーツなどの施設が豊富で、いろいろな人たちに手が差し伸べられていて参考になります。茨城県にも文化施設、大学での活動などがあるので、みなさんと考えていけたら嬉しいです。


(4)栃木県・とちぎアートサポートセンター TAM 五味渕仁美
出稽古先:宮城県
テーマ「生涯学習をキーワードにした出稽古報告」 
TAMの拠点である「もうひとつの美術館」や、Viewing展の作品データや作家・施設の紹介動画などのデジタルアーカイブ事業について紹介しました。仙台市のコンソーシアム会議では、参加者の悩みに対して今までの取り組みや事例の情報共有がなされていた点に注目しました。また、かかわりを持ちたい人にとって、アドバイスやコーディネート、サポートができるNPO法人エイブル・アート・ジャパンのような存在は、必要で心強い団体であると感じました。
コメント(柴崎):宮城県は18歳以降の障害のある人の文化・スポーツなど、社会教育施設への参画に課題があります。しかし、東日本大震災以降、経済的困窮や不登校児の多さなどの課題から、宮城県や仙台市も教育や生涯学習への関心が高まってきました。その関心度やネットワークの力を生かして、幅広い支援につなげられたらと思って活動しています。
コメント(小堀):昨年のViewing展を見て、展示を通した人材育成の場になっていると思いました。出稽古やシンポジウムでの個人のつながりが、頼り甲斐のあるネットワークになるのではないかと考えます。

(5)山形県・やまがたアートサポートセンター ら・ら・ら 武田和恵
出稽古先:福島県(*令和5年度)
テーマ「文化施設とアクセシビリティ研修~その後の山形の動き」 
山形県は令和6年度、人材育成とアクセシビリティを目標に活動しました。来月、栃木県への出稽古を控えていますが、昨年度の福島県では、合理的配慮などを考え続けていくことで向上していく「筋トレ」のようなものを具体的にイメージできました。その学びを生かし、体験談や事例の共有、考え続ける仲間を得て実践し始めています。
コメント(ミヤタ):美術・芸術系大学との連携は、各施設や団体でやるのは難しい側面があります。支援センターが基点になって進めていくのは、茨城にとっても可能性があるのではないかと感じました。

2.いばらきで、いま起きている

令和5年度にスタートした茨城県支援センターの活動報告と、茨城県内実践紹介として、社会福祉法人征峯会、NPO法人 チア・アート/筑波大学の取り組み、そして会場の参加者とセッションを行いました。

(1)茨城県・茨城県福祉部障害福祉課 額賀博美
テーマ「茨城県における障害者文化芸術活動に関する取組について」
毎年行われるナイスハート展に加え、障害者スポーツ文化協会と協働の支援者向け研修会を、水戸芸術館より森山氏、社会福祉法人征峯会の小野瀬氏を講師に招いて実施しました。情報共有については方法を検討している状況です。今後の展望として、作品展示機会の拡大、企業連携の推進や連携を県内全体に広めていきたいと考えています。

コメント(柴崎):これまでの展示機会の具体的な様子や課題を知ることができ、また今年度着手の人材育成、今後の展望なども示していただきました。後ほど、茨城県に必要な視点やあるべきかたちを議論していければいいと思います。


(2)社会福祉法人征峯会 小野瀬順子
テーマ「障害者アートと社会をつなぐ 企業・⾏政との連携」
デザイナーと連携しWinWinになるウェルフェアアートプロジェクトを推進しています。具体的には、市庁舎での作品展示や日本酒ラベルへの作品使用、コンビニでの個展開催、レンタルアートなどを実施しています。

コメント(柴崎):最先端の企業連携、そして民間としてこんなにもできていることを、今回茨城県のみなさんと共有できて嬉しく思います。


(3)NPO法人 チア・アート/筑波大学 岩田祐佳梨
テーマ「なぜケアの現場でアートやデザインに取り組むのか?」
多様なアート領域の教員や学生と病院職員が協働して展示やワークショップを行っています。医療の専門的支援だけでなく、生きる力を引き出す人間的環境づくりや、対話を通して何が必要か探りつつ、双方向の学びを提供しています。

コメント(小堀):キッズデザイン賞をとった下妻特別支援学校でのワークショップがあります。この時の教頭先生が、今は水戸市の特別支援学校で校長をしています。こうした異動によるネットワークの広がりにも注目したいと思いました。
コメント(柴崎):報告全体を通じて、個人・団体または福祉の分野だけでは、この活動の推進は難しいという側面がみえます。障害のある人たちの活動や輝く社会生活を支えていく中で、地域の資源に目を向けて、いろいろな分野の人と連携する必要性を感じています。

3.会場の参加者とセッション

福祉従事者、文化施設職員、行政など多様な立場の人たちから、教育現場への障害のあるアーティストの派遣、幅広い芸術や文化の鑑賞体験、アーティストや芸術・文化機関との連携など、多視点の意見・質問が出て、アクセシビリティの向上やネットワークづくりの重要性が共有されました。


・参加者:つくば市の豊かな心育成事業にて、自閉症の音楽家のバイオリンとピアノ演奏を小・中学校で鑑賞しています。環境づくりの大切さを感じています。

コメント(柴崎):美術だけでなく、音楽や芸能、囲碁・将棋などの生活文化にも目を向けていく視点に気付かされます。重要な視点をありがとうございます。


・参加者:茨城県の作品展示の機会拡大やアウトリーチなど、展示にどう多様な人に関わってもらうかの展望を教えていただきたいです。

コメント(額賀・茨城県支援センター):同時開催の茨城県自閉症協会さんの展覧会のように、個人個人を大切にした個展みたいなものを個人的には始めたいと思っています。みなさんが立ち寄りやすいショッピングセンターなど、今回の発表を振り返ってアイデアをいただきながら、検討していきたいです。

コメント(小林・はじまりの美術館):一週間で3000人以上の来場のあるナイスハート展はすごいと思います。「障害者アート展」というと関連の方ばかりになるので、発表したい人には良い機会だが、接点がない人にどう届けるかは重要です。展覧会のネーミングなどが大事になってきます。個展の場合、どう当事者の方と出会うかも鍵となってくるでしょう。鑑賞やワークショップ、関連イベントなど、作品を展示しただけでは終わらない肉付けも必要です。自分たちだけでやりきれないところは連携が大事になってくると思います。

コメント(柴崎):そうしたことを共に考えていく仲間として、表現をインストールしてきている専門家や機関と連携していくことはとても重要ですね。


・参加者:アクセシビリティの向上は課題です。(文化施設で)おしゃべり声だけでも退場させられた経験があります。質問としては、茨城県支援センターの課題としてネットワークづくりが出ていましたが、施設側としてどう関わっていったらいいのか教えてほしいです。

コメント(額賀・茨城県支援センター):相談支援を充実させたり、情報収集の中でネットワークづくりをしていきたいと思っています。むしろ教えてほしいです。

コメント(吉田・こ・ふぁん):群馬県内の関心度に地域差があり、熱いところから組んだ方が効率的だと感じています。


・参加者:地域の施設に出向く相談支援専門員をしながら、個人的に縁・芸プロジェクトを行っている。ボランティアでは活動が続かないので、アーティストへの謝礼をどうしたらいいのか教えてほしいです。

コメント(武田・ら・ら・ら):謝礼は支援センターで用意しています。アーティストにワークショップ企画や準備までお願いしてしまうと予算が足りない場合があるので、その場に行ってサポートすることに留める場合もあり、スタッフ研修など、負担の少ない形でやっています。金額の上限を決め、回数はアーティストに決めてもらっています。最初は支援センターで予算を用意しますが、次からは福祉事業所で用意してもらうように働きかけています。


・参加者:他県に舞台表現の活動の場を広げていきたいと思っていますが、株式会社でやっている福祉ということで自由度は高いが、会場が借りられないという壁に当たっています。

コメント(柴崎):こうした場合にも、支援センターに共催・協力・後援依頼を出し、活用してもらえればいいと思います。


・参加者:アーティストの関心にも、障害のある人との日常といったものがあります。障害者支援という枠組みだけでなく、アーティストや美術館の助成金のノウハウもあるので活用してほしいです。また、美術館における対話と静かにしなければといった文化と擦り合わせながら、環境を変えていければと思っています。

・参加者:展示、記録、ネットワークの見える化がキーワードだと思いました。

コメント(森・厚労省):前半は当事者と支援者、寄り添う人、共にいる人がどう社会をつくっていくかが重要と感じました。後半は、いろいろな立場の人々を後押しできるようなネットワークが求められていると感じました。

レポート:小堀幸子(NPO法人ちいきの学校)

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