終了・報告

【レポート】アトリエつくるて2024⑤(11月30日開催)

「アトリエつくるて」は、障害のあるなしや年齢にかかわらず、だれでも参加ができて、自由に創作を楽しむことができるオープンアトリエです。
現在は、参加者の創作を見守り、ともに表現を楽しむ「ファシリテーター」として、美術作家の佐竹真紀子さん、アーティストのしょうじこずえさんと一緒にこの場をつくっています。
今年度は、アトリエつくるてのようなオープンアトリエの活動をともに考える仲間が増えたらいいな、また参加者のみなさんが新しい表現や制作方法に出会う機会になればいいなという思いから、10月・11月・12月のアトリエに、美術や造形にかかわるアーティストを一人ずつ「ゲストファシリテーター」に招いて開催してきました(ゲストファシリテーター紹介)。
10月・11月・12月のアトリエレポートでは、ゲストのみなさんが初めてアトリエに参加して感じた感想コメントを中心に、その様子をお伝えします。

11月のアトリエ

11月のゲストファシリテーターは、アーティスト・画家の門眞妙(もんま・たえ)さんです。宮城県仙台市出身の門眞さんは、アニメキャラクターのような少女と気になった風景をアクリル絵の具でキャンバスに描く作品を制作されています。



この日のホワイトボードには、ゲストの紹介として門眞さんのフルネームとともに「もんちゃん」と書かれた紙が貼られていました。自己紹介では、ファシリテーターの佐竹さんから門眞さんの紹介があり、門眞さんから仙台などで開催された個展の図録をもとに作品紹介や、パレスチナ連帯運動として「ガザ・モノローグ」の朗読会やパレスチナをおもう行動を促すイベントの企画など、いま取り組んでいる社会運動についてもお話しいただきました。
これまでアトリエでは、漫画やアニメキャラクターのような人物の絵を描くことが好きな人もいたので、門眞さんと響き合うものがある人もいるのではという思いもありましたが、休憩中、門眞さんの個展の図録を眺めている人もいました。

この日は子どもから大人まで12人の参加があり、付き添いの人やスタッフをふくめると20人以上が会場に集まりました。机を置かずに、床でのびのび創作できるスペースもつくったところ、ダンボールを広げて絵の具で大胆に絵を描く人もいれば、いつもの定位置の机でいつもの絵を淡々と描き始める人もいます。


あるつくりてさんは、かつて宮城県内や仙台市内で走っていたバスの正面の絵を毎回描いています。いつもそのつくりてさんが生まれた年代以降のバスを描いていると思っていたのですが、その日つくったものを「見る時間」では、門眞さんが「生まれる前の時代のものも描きたいですか?」と質問してみたところ、「はい、描いてみたいですね」とのこと。長く関わっているファシリテーターやスタッフも知らなかった参加者さんの創作の思いを知ってハッとした瞬間でした。
アトリエに継続して参加しているつくりてさんたちにとっては、今日初めて参加した門眞さんからの新鮮な問いかけをきっかけにおしゃべりしたり、作品を見てもらったりすることは、特別な時間にもなったのではないかと思います。



ここから、門眞さんの感想を紹介します。

アトリエつくるてに参加して(文:門眞妙)

2024年11月30日のくもりの日。「アトリエつくるて」にゲストファシリテーターとして参加をしました。
さまざまな年代の方が参加されていることは事前にお聞きしていたのですが、実際に身を置くと目から鱗がポロッと落ちるくらい新鮮!(下は幼稚園、上は50代くらい?)つくり手のみなさんも、アトリエの運営のみなさんも、それを可能にする安心な場作りを意識的にも無意識的にも協働されていると感じました。こんな制作環境の経験はなかったな…と今までの自分を省みたりもしました。
それぞれの制作の様子を覗きながら、以前制作された作品について教えていただいたり、持参されたスケッチブックの過去作も見せていただいて、これまでの作品の流れを知れたり、人によっては今回画材や描き方を変えていることもわかり、目の前で制作されている作品にもまた違う奥行きがあることを知ることができました。つくり手のみなさんの「つくりたい!」気持ちが湯気のように立ち上がり、かと言ってしいんと静まるのでもなく、実は他の方を観察していてヒントをもらって自作に反映したりといった響き合いと、集中から生まれる心地よい緊張感がおだやかに交差する時間。目の前で色や形が弾けてゆくさまをこんなに近くで見せていただいていいのだろうかと思うほど、贅沢な時間でした。小さな方の作品発表の際に、ひとまわりほど年長の方がうつむきながら速めの拍子で短く拍手をされていたのが、とってもすてきで、心に残っています。
つくり手のみなさん、スタッフのみなさん、私はあんなかんじで大丈夫でしたでしょうか!?あたたかく迎え入れてくださって本当にありがとうございました。

余談ですが…打ち合わせで、車椅子での参加を予定されていた方(当日はお休みになり不参加でした)の席と全体の机の配置をどうするか考えていた際に、ファシリテーターの佐竹真紀子さんが「車椅子の方も他の人の作品をどのくらい見たいか本当のところがわからないよね」とお話をされました。お手洗いに移動しやすいようにと入り口近くに設定しましたが、ご本人も他の方の制作の様子を見に行きたい気持ちはあっても言いづらい場面もあるかもしれない…という、今まで考えたことがなかった気づきもありました。例えば一部の電車や映画館のように車椅子専用のスペースがあらかじめあっても、それで万事解決かと言うと、実はそこと違う場所に行きたいかもしれない。むしろ「健常者」の安心のために、そこにしばっているのかもしれない…と少しだけ私の思い込みの殻がぺきっと破れたんじゃないかと思います。2024年4月に「合理的配慮」(私は合理的調整と言いたいけど)の提供が事業者に対して義務付けられた「改正障害者差別解消法」が施行されました。このような言葉があることで今まで意識していなかった、かちかちに内面化していたことにすこーし針がぷすっと刺さって神経が通るのを感じています。事業者だけでなく個人であっても、互いに話し合ったり、確認をし合いながら、互いに良いと思えるポイントを探すことはできるだけ行いたいし、それができる心の余裕を持っておきたい…余裕がなくなりがちだから…と思っています。

ゲストファシリテーターの参加を通して

門眞さんの感想にあった「私はあんなかんじで大丈夫でしたでしょうか!?」という言葉の背景に、ゲストファシリテーターとして適切に振る舞えていたか……という迷いもあったのかもしれないと感じました。ただこれまでも「ファシリテーターの役割ってなんだろう」と、佐竹さんやしょうじさんと話し合いをしてきた中で、画法や創作の技術を教えるというよりも、つくりてさん(参加者)の創作の見守り人として、迷っていたら一緒に考える、ともに表現を楽しむことを大切に「その人なりの関わり方が合って良いよね」という話をしてきたことを思い出しました。また参加者のみなさんの様子を見ていると、毎回はじめましてのつくりてさんを迎え入れるのと同じように、その月ごとに変わるゲストのみなさんも自然に受け入れていたように思います。

今回はゲストファシリテーターのみなさんにも、事前にファシリテーターとの運営の打ち合わせに参加していただきました。門眞さんのコメントの後半で書かれている打ち合わせでの気づきから、運営側としてあらためて場のつくりかたについて考えさせられました。運営の打ち合わせでは、参加者から事前に寄せられた必要な配慮をもとに、会場の配置やスケジュールの組み方などを工夫することもあります。そこから派生して「もっとこうしたほうが参加しやすいのでは?」と考えることもありますが、それが本人にとって心地よいかどうかは、当日の気分でも変わるかもしれないし、わからない。ときには先回りしてしまったこともあったのかなと考えました。自分の創作を楽しむことと他者と交流することのバランスなど、アトリエに来てから帰るまでの一連の体験として、その人が心地よい参加の仕方を選択できる、余白を持った場のつくりかたを意識していきたいなと思いました。

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感想コメント寄稿:門眞妙(画家、アーティスト)
レポート:高橋梨佳(NPO法人エイブル・アート・ジャパンスタッフ)

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