終了・報告
報告レポート SOUPの研修2023第2回「創作体験」「障害と芸術文化の大見本市」
- 1.2023年10月28日(土)時間10:00-12:00(創作体験)
2.2024年1月26日(金)~1月31日(水)障害と芸術文化の大見本市(ヤタイとニューカマーセブンへの出展) - 場所
- 1.宮城県伊豆沼・内沼サンクチュアリセンター
2.せんだいメディアテーク1階オープンスクエア
- 概要
- 今回のSOUPの研修は、これまでなかなかアウトリーチできなかった地域や団体に赴いて個別の伴走支援をする内容としました。対象は社会福祉法人栗原秀峰会くりこま「ゆめ工房」(以下、ゆめ工房)さんです。令和4年(2023)2月に開催した、「障害と芸術文化の大見本市」で出会い、福祉施設のなかで行う文化芸術活動について相談をうけたのがきっかけです。その後、宮城県美術館がリニューアル休館中に、「出張創作室」を栗原市で行うことが明らかになったため、この機会を活用して創作体験を行い、施設にどんな文化芸術活動を定着できるか、ともに検証する最初の一歩としました。
オープンアトリエならではの創作の意欲と出会いと
宮城県美術館が主催する「出張創作室」は、令和5年度は3カ所の施設で実施されたのですが、そのうちの1会場が、栗原市にある「伊豆沼・内沼サンクチュアリセンター」でした(共催:栗原市教育委員会)。ちょうど渡り鳥が伊豆沼・内沼に飛来しはじめたシーズンで、オープンアトリエとして設置された野外のテントには、たえず渡り鳥の声が響きます。同じ日にマラソン大会も開催されていて賑いが生まれていた秋の一日でした。
あらかじめ美術館の「出張創作室」窓口に申し込みをしておき、当日はゆめ工房から、利用者の3人・スタッフ1人が参加しました。オープンアトリエには、紙や木材、画材や木工用具が準備されており、参加者は自ら好きな材料で創作ができる設えです。SOUPのチームが会場に到着したときには、すでに、ゆめ工房の3人はガンガン、創作をはじめていました。
ある方は、はじめに白鳥の絵を描いた後、木片を大量の木工ボンドで接着しながら積み上げていきました。これはなんですかとメモを差し出すと、明快なイメージがあるのか、●●、とはっきりとした言葉をメモに書いてくれました。ある人は、ブロック型のクレパスで木片の6面を強い強い筆圧で塗りつづけていました。「これはなんですか」と尋ねると「木だ」と答えてくれました。なるほど、木以上の何者でもないよという答えだったのでしょうか。
小口の表情とクレパスの筆圧がマッチして、素敵なテクスチャーの木片が生まれていました。ある人は、平たい木材の板を基底材にして描画活動をしていました。最初にクレパスで全面を塗り、その後に顔料マーカーである一定のブロックごとに隙間なく色を塗り重ねていました。異なる画材と色の重なりが生み出す奥行き、色の変化が美しい作品でした。
印象的だったのは、サンクチュアリセンターの館内で行われていたキッズ・プログラムが終了し、子どもたちが一斉に外にでてきたときのことです。ゆめ工房の3人の制作者たちの様子に目を奪われ、同じように木端に着彩し、立体物をつくりはじめた子どもが複数いました。ある小さなお子さんは、ゆめ工房のメンバーと同じテーブルに座り、終始無言で、付き添ったお母さんが驚くほどの集中力で木片と向き合い造形物をつくっていました。
くりこま「ゆめ工房」の〈はまらないパズル〉
創作活動が終了したあと、利用者のみなさんを送迎し戻ってきたスタッフとともに宮城県美術館の学芸員さんと情報交流しました。なんと送迎車のうしろには、たくさんの木片が!!「どうしたらわからない」んです、とスタッフさん。きけば、福祉事業所で時間をもてあましたとき、そうめんの木箱やいただいた木片の木端にただ色を塗ってきたのだとか。木片に躊躇なく着彩したり、立体化したりする様子が、普段の活動からきている理由がわかりました。
また、ちょうど令和6年(2024)の春に施設のリニュアルオープンを控えており、利用者の創作物で来客にお渡しするオリジナル商品をつくりたいという希望のお話もでてきました。
学芸員さんが「どうしたらわからない。それをそのままコンセプトにしたらいいじゃないですか」と言いました。作品に仕立てるのではなく、利用者が着彩した木片で、われわれ(参加者)が勝手に遊ぶという場を準備するのはどうかというアイディアです。ワークショップ〈はまらないパズル〉の案が浮上した瞬間でした。
くりこま「ゆめ工房」の創造性にふれて
SOUPのチームも、まだワークショップ〈はまらないパズル〉のイメージがおぼろげななか、竣工される工房の場所を見に行きたくなって、その後、サンクチュアリセンターから車で30分、栗駒山の山裾にある工房を訪問しました。
生活介護事業所ですが、とろみ剤やごま製品の封入などの下請け作業を通じて働き、その傍らに体操や美術の時間がありました。メンバーさんはお休みでしたが、いたるところに大切なものや大切な時間を過ごしていることがわかる様子をみてとることができました。
きっとお披露目会にはたくさんの家族や支援者がきて、みなで新しい場所のスタートを祝うのだろうなーというイメージが湧きました。その後、SOUPでも「どうしたらいいかわからない」をコンセプトに、施設で制作した木片を、一般参加者がオブジェとしてくみたてる〈はまらないパズル〉を来場者参加型でテスト的に実施する約束をしてその場をあとにしました。
〈はまらないパズル〉、ぞくぞくと
2024年1月26日(金)~1月31日(水)、障害と芸術文化の大見本市の会場にて、ゆめ工房のブースを設けました。施設にあるありったけの木片を送付してもらい、来場者に〈はまらないパズル〉を作成してもらうものです。また作成したパズルは、インスタントカメラで撮影してもらい、そこにコメントを添えてどんどんと遊びの軌跡を残していくというコーナーをつくってみました。支援センターとして、見本市の場でみえるかたちにし、手法そのものをゆめ工房に移転することにしてそれを実行したものです。
ゆめ工房のみなさんは、積雪と新施設の引越があり残念ながら搬入しか立ち会えなかったのですが、搬入直後から、勝手にパズルをつくる子ども、大人の姿があり、その様子を写真に撮って後日送付したところ、「皆さんのコメントやパズルを見て感激しておりました。3月に入ったら秀峰会にて展示し皆さんにお披露目したいと思います。」とコメントをいただきました。
また、もうひとつの発展として、新たな施設のお披露目会記念品に〈はまらないパズル〉の写真が使用されることになりました。記念品の制作は、仙台市内の就労支援B型施設が担当することにもなり、新しいつながりや連携の形も生まれつつあります。
ゆっくりではありますが、伴走型のSOUPの研修もまた、人材育成のひとつのかたちと考え、必要時に取り組んでいきたいと思います。
レポート:柴崎由美子(NPO法人エイブル・アート・ジャパン)