終了・報告

報告レポート SOUPの研修2023第1回「障害のある人とデジタルアート」

開催日
2023年10月19日(木)
時間
13:30-15:30
場所
SOUPフリースペース(仙台フォーラス7階)&オンライン(zoom)
講師
村上渉さん(宮城教育大学大学院教育学研究科 高度教職実践専攻 特別支援・子ども支援プログラム)
概要
SOUPの相談のなかに、「デジタルアート」に関わる相談が増えてきました。コロナ禍を経て、障害のある児童・生徒が、当たり前にデジタルデバイスを持つような時代になってきましたし、若年層のなかにはデジタル機器による作品製作をする人も増えている実感があります。
講師の村上渉さんは、北海道の特別支援学校の先生なのですが、現在(*研修当時)は大学院に籍をおき「障害のある人とデジタルアート」に関わるさまざまな側面を研究しています。研究の柱は、学齢期の子どもを対象にしたものとなりますが、応用として青年期以降の成人にも参考になりそうです。
デジタルアートに取り組む個人・団体は必聴・必見!また、重度重複障害児者のQOLを高める支援の在り方のひとつとして、テクノロジーの可能性を探る機会にしてみましょう。

■参加者

会場:15人
オンライン:8人

■当日の流れ

13:15 開場および Zoom 開設
13:30-13:40 研修の目的の確認、講師紹介
13:40-15:20 講師より話題提供、質疑応答
15:20-15:30 アンケート記入願・その他の告知

■内容

はじめに~画像生成系AIを用いて自己紹介!

村上さんの自己紹介がはじまり、その後、村上さんのイラストが話し出すという驚きのスタートで講座がはじまりました。
「写真からイラストを生成し喋るようにする方法」として、画像生成AIを使用した作業工程が実演で示されました。

その後、参加者は自分のパソコンまたは配布されたタブレットから体験します。多種多様なサービスが展開している「画像生成系AI」が紹介され、その場でひとつ取り上げて画像をつくってみることに。「イメージをカタチにする」として、自分の特徴を「まじめ」「走ることが好き」「メガネ」「コーヒー好き」など文字で特徴を入力し、そこから画像を生成する体験をしました。

体験後、本人や支援者がおさえておくこととして、【よさ】絵心や画力がなくても楽しめる、対面での心の不安を軽減できる、【課題】利用する側のルールやモラルが必要、金銭トラブルにつながる可能性、についての紹介がありました。

(1)のぞいてみよう!デジタルアートの芸術祭

次に、2021年3月、北海道教育委員会特別支援教育課が主催した「ばーちゃる文化祭」の事例が紹介されました。企画の発端は、新型コロナウイルス感染症の影響で学校行事が行えず発表する機会がなかったこと。この文化祭を通じて、特別支援学校の児童・生徒が作成した作品や文化活動を広く知ってもらうために開催されたものです。

視覚支援学校、聴覚支援学校、肢体不自由児が多く通う特別支援学校などを含む合計9つの支援学校が参加し、作品、活動の様子などをオンライン上で発表していた記録映像を、村上さんの解説を加えて視聴しました。
進行役として、灰色の猫と女の子のキャラクターが登場していたのですが、これも特別支援学校の生徒がアバターを操作して司会をつとめたものでした。デジタル化にかかわる技術協力には地域の民間企業が参加していました。

次に、特別支援学校の児童生徒のICTを活用した活動について紹介がありました。事例は「雪ミク芸術祭」。「雪ミク」とは、バーチャルアイドル・初音ミクの冬季版キャラクター。子どもたちのデジタルアートへのハードルをぐっと下げること、加えて、デジタルアートを通じて外の世界に発信していくことを目的とした試みです。

雪ミクをテーマにした「イラスト部門」「塗り絵部門」とふたつの部門が設定され、賞を設けることで参加意欲を引き出していました。また、支援側は雪ミク作品の完成までにタイムラインもみることができるため(作品の途中経過もみられるため)、一人ひとりの子どもがどのような経過で制作をしているのかも知ることができると村上さんから解説がありました。

「イラストソフトを活用した表現活動において支援するときに気をつけたこと」として、以下のポイントも紹介されました。

・遊びから表現へとつなげていく
・偶然性を大切にする
・同じ素材を繰り返し行う
・こだわりを大切にする
・短時間で制作し表現する
・便利な道具を探す(タッチペン、クッション、姿勢)
・感覚の働かせ方に気づいて扱い方を変える(必ずしもデジタルにこだわらない)
・作品を通して外に関わっていく

会場の参加者もタブレットでibis Paint(アイビスペイント)を実際に使ってみながら、体験してみました。

(2)デジタル機器との付き合い方

デジタルアートの楽しさ、気軽さを体験したあと、講座は「デジタル機器との付き合い方」というテーマにすすみます。障害のある児童・生徒が、当たり前にデジタルデバイスを持つような時代になってきた昨今、支援が必要な子どもたちへのデジタル活用の現状と課題を整理し、どのような支援が必要かを考えるものです。
これは、講師の村上さんが大学院で研究しているテーマでもあり、最新の研究データや分析なども示されました。この報告ではほんの一部ですが、ご紹介します。

PISA調査というICT活用調査の国際比較によれば、日本では、余暇(家庭などでのゲームやチャットではデジタル機器を使いこなしているのですが、学習(国衙や数学など)のための利用は非常に少ないというデータがありました。例えば、フェイクニュースの見分け方ができないなど課題も浮かびあがっています。
また、情報の質(鮮度・正確性・信頼性)は受けての知識やスキルによって変化すること、また現代社会では情報リテラシーは日進月歩のため、使い方はアップデートされつづけなければならないという指摘がありました。

支援学校に在籍する高校生へのアンケート調査から、学校外でのデジタル機器(スマホ等)の利用状況は90%以上で、そのニーズは高い順に、絵を描く、動画の撮影や編集、写真の撮影や加工というものでした。一方、家族には心配や不安があり、とくに「発達過程にある児童や障害のある人には、安全に使うためのゲートキーパーが必要」と考える傾向にあることが紹介されました。

デジタル機器の適切な利用には、子どもの能力や家庭環境でかなりの差異があると村上さんは指摘します。そこで村上さんは、現在、共通の支援ツールとして発達段階に応じた「こどものICT活用力・チェックリスト」40項目を開発しているとのことでした。「基本スキル・情報活用力」「情報モラル・情報セキュリティ」の実態を客観視し、支援するポイントを見通していくものです。

村上さんは、チェックリストの活用を通じて、「ひとりひとりの強みと弱みから、その子・その方なりの使い方の提供や支援の方法を検討することができるのではないか」と語ります。

(3)デジタル機器を活用した支援について

村上さんが特別支援学校で実践してきたデジタル機器の活用方法も紹介されました。主にタブレット端末を活用した多様な実践例で、一例として、iPadで動画編集の仕方、デジタル絵本作成、アプリを活用した選択ゲームの作り方、便利なアプリの活用法、が資料として紹介され、時間の都合で詳細には解説されなかったのですが、SNSにおける生徒のトラブルの現状やコミュニケーションにおける改善の視点についての事例紹介がありました。

例えば、「知的障害特別支援学校における情報モラル教育の現状と課題」という調査を事例に、特高校生になるとネットトラブルが増加すること、そのうち女子生徒は人間関係に関すること、男子生徒は金銭関係に関することが多いことが紹介されました。

そこで、解決策のひとつとして「情報モラル」について考える学習の方法が紹介されました。例えば、LINEなどで気持ちのすれ違い、勘違い、人間関係などのトラブルにつながる場合があり、「文字で気持ちを伝える」方法の具体的事例などです。
会場の参加者も、「これ、あるある~」という雰囲気で盛り上がった瞬間でした。

(4)重度障害児との実践について

最後に、村上さん自身が特別支援学校などで関わりの多かった重複障害児との取り組みが紹介されました。例えば、重度身体障害の児童が手、指、目などを使い、タッチセンサーなどを用いたインタフェースでデジタル機器を使用できるようにする事例で、図工や美術、その他の授業での活用場面例など。

また、これらを通じて、「自分でやりたい気持ちを尊重する」「できる達成感をつくる」など、重度重複障害児者のQOLを高める支援の在り方についても豊富な資料や写真での紹介がありました。

会場でも実際に、Textile Maker(テキスタイルメーカー)というアプリを使って簡単に模様が作成される工程を体験しました。指先の小さな動きから生み出した描画に、色をつけたり、複数化したり、反転したりして、テキスタイルの模様作りを楽しむワークです。あっという間にたくさんのテキスタイル模様ができて会場も盛り上がりました。

おわりに~デジタルアートの可能性

デジタルアートは、一般的にはコンピュータをはじめとする様々なテクノロジーを使用した、デジタルな芸術作品を総称する言語として広く用いられていますが、近年のインターネットの普及や急速なテクノロジーの発展によって、これまでアートの範疇として捉えられてこなかった多様な手法や技術が新たな価値の創造として切り拓かれつつあると村上さんはまとめます。

障害のある人のこれからを生きる場を豊かにする支援ツールとして

デジタル「で」ひろげる支援
デジタル「と」かかわる取組
デジタル「にしか」できない経験

これらのアクセシブルな環境を保障することが大切になっていく

この後、会場からも質疑応答を行い、研修を終了しました。

■アンケート

Q. 研修のなかでもっとも大きかった学びの視点はどんなことでしたか。
・デジタルアートを支援の場に用いることの意味や注意することを改めて学びました。
・個人でも気軽にデジタルアートに触れられることが知れたこと。
・LINEのやり取りで、表現の仕方の違いで文章の持つ意味が大きく違ってくるという事例が興味深かった。
・弊害の方に目がいきがちであったデジタルアートやそれが商品になるというB型事業所的な考えのもとに考えるのをいったんやめて、皆で楽しむために利用することを考えたいなと思いました。
・どんなソフトを使えば、どのようなことができるかが知れて良かったです。
・アプリを使用した画像生成はとても興味深い。身近な物として取り入れられることがわかり楽しかった。
・匿名性の高さや表現の仕方が多様であることから、アバターなどを利用したウェブ上での自画像をつくるという手法は特定のある方のみならずいろいろな人に親和性が高いなと感じました。デジタルを使用することのメリットとデメリットをよく理解する必要性も強く感じました。
・イラストを描くので生成AIに抵抗感があったのですが(否定的な情報が入ってくることが多いので)、生成の使い方や良い面(子どもたちの自己紹介で盛り上がるエピソードなど)を知ることができてよかったです。
・デジタルアートの作品を通じて、外とかかわっていくというお話が響きました。
・デジタルアートの導入による可能性だけでなく、それによる弊害や留意点についても学ぶことができました。メンバーさんの新しい表現のきっかけになれば、という気持ちがありますが、安易に取り入れる前に、その方の特性などもよく考慮したうえで慎重に検討したいと思いました。

Q.研修での学びを具体的に生かそうと考えていることがあればおしえてください。
・利用者とのコミュニケーションの場やレクの時に活かしていきたいと思いました。
・趣味でデジタルアートを取り入れていきたいです!また個人でチェックリストをやってみて自分の弱いところを可視化して改善を目指したいです。
・LINEなどのSNSでトラブルになることは事業所の利用者にも経験があるので一緒に向き合って考える機会を設けるのも良いと思った。
・チェックリストはぜひ利用したいです。SNSに悪口を書いてしまう人や、アイドル活動をしているので一般の方の心無いコメントで傷ついている人、金銭トラブルが実際におきているため。
・動画編集など、就労に活かせる技術があれば知りたいです。なにかつながらないか考えたいです。
・施設の活動としてどんなことができるか考えていきたい。実際の芸術・生産活動として活用できる点をみつけていく。
・SNSのロールプレイは、子どもたちや大人においてもやるべきだなと思いました。臨床心理的側面も多く含んでいて、やぅてみようと思います。
・iPhoneにもiPadにも入っているのに、いつも使うものしか知らなかったので、どういうアプリがあるのか調べたいと思いました。
・重度重複障害のある娘の親です。学校を卒業してしまいましたが、視線入力でのアート活動を楽しんでいます。作品の発信や、著作権などについて学びたいです。機会があったら取り扱ってください。県外から参加させていただきありがとうございました。
・前半部分にメンバーさんと一緒に参加しました、AIイラストメーカーとAdobe Fireflyの体験でとても盛り上がりました。個人的にはTexitaileメーカーも興味深かったです。デジタル関係について精通する者がいないので、今日の研修はとても勉強になりました。村上先生の研修の続編をぜひまたお願い致します!先生のご研究にも何かお役に立てましたら幸いです。

■研修で紹介した活動、紹介・実践したアプリ(外部サイト)

・毎ドラ部 AIイラストメーカー
https://mydrabu.georgia.jp/illust/

・Adobe Firefly
https://www.adobe.com/jp/products/firefly.html

・YouTube「♪ばーちゃる文化祭2021♪」(北海道教育委員会特別支援教育課)
https://youtu.be/t8yO_JxRjck?si=7Pwg83LiI5t3RckQ

・ibis Paint(アイビスペイント)
https://ibispaint.com/

・雪ミク芸術祭2023(北海道立特別支援教育センター)
http://www.tokucen.hokkaido-c.ed.jp/?page_id=1058

・TextileMaker(テキスタイルメーカー)
http://textilemaker.html.xdomain.jp/

レポート:柴崎由美子(NPO法人エイブル・アート・ジャパン)

バナー:障害者芸術文化活動普及支援事業(厚生労働省)
バナー:ABLE ART JAPAN
バナー:Able Art Company