終了・報告

報告レポート SOUPの研修2023第3回「障害のある人とつくるパフォーミングアーツ研究会」

開催日
2024年01月28日(日)
時間
14時〜16時
場所
せんだいメディアテーク1階オープンスクエア(仙台市青葉区春日町2-1)*「第6回障害と芸術文化に関する大見本市」内で実施
情報保障
手話通訳・要約筆記
概要
宮城県内でも、障害のある人とつくる音楽・演劇・ダンス・人形劇などの活動が多様化しつつあります。実践者による報告を通して活動の現在地を知り、今後の展望について語り合う研究会を開催しました。
令和5年度 宮城県障害者芸術文化活動支援業務(運営:特定非営利活動法人エイブル・アート・ジャパン)
令和5年度 厚生労働省障害者芸術文化活動普及支援事業
2023年度持続可能な未来へ向けた文化芸術の環境形成助成事業(助成:公益財団法人仙台市市民文化事業団)

■タイムスケジュール

全体進行:柴崎由美子(エイブル・アート・ジャパンスタッフ)

14:00-14:10 あいさつ
14:10-14:40
<テーマ①障害のある人とつくることで広がる表現>
【報告1】聴覚障害のある人と一緒に踊るダンスワークショップ「さぐるからだ、みるわたし」/渋谷裕子(さぐる・おどる企画)
【報告2】障害のある人ない人多様な人とつくる人形劇ワークショップ「みんなでつくるよ広場の人形劇!」/工藤夏海(美術家、人形劇団ポンコレラ、でもトラ!)、高橋梨佳(エイブル・アート・ジャパンスタッフ ※オンライン参加)
14:40-15:10
<テーマ②人材育成や環境形成の観点から>
対談:及川多香子(NPO法人アートワークショップすんぷちょ)、菊地将晃(特定非営利活動内容明日のたね)
15:10-15:20 休憩
15:20-16:00 パネルディスカッション
コメンテーター:伊地知裕子(クリエイティブ・アート実行委員会プロデューサー)

はじめに

SOUPでは、障害者芸術活動支援センターの活動として、美術や創作に関わる活動に比べて取り組みの少なかったパフォーミング・アーツ分野の障害のある人の活動を支援する人材の掘り起こしと、ネットワーク化に取り組んでいます。この研究会は、その一環として、障害のある人とつくるダンス、演劇、音楽、人形劇の活動の魅力を広く知ってもらうこと、そして活動の活性化のためになにができるかを一緒に考える場として、アーティストや文化芸術に関わる文化施設や財団の職員、障害のある人などに向けて実施しました。

<テーマ①障害のある人とつくることで広がる表現>

【報告1】

はじめに、聴覚障害のある人と一緒に踊るダンスワークショップ「さぐるからだ、みるわたし」について、ワークショップを主催するダンサーの渋谷裕子さんから報告がありました。

これまで子どもや高齢者、障害のある人など、さまざまな人に向けたダンスワークショップを実施してきた渋谷さん。そのなかに、手話を必要とする聴覚障害のある人がいなかったことに気づき、聴覚障害のある人も気軽に参加できるワークショップをやろう!と企画にいたったそうです。

「さぐるからだ、みるわたし」でおこなうダンスは、その場に集まった人たちでしか生まれない創作や表現を大切にしています。たとえば、昨日のできごとをジェスチャーで表現してみる遊びや、夏の思い出をテーマに一人ひとりのエピソードを共有し、そこから動きをつくっていく「その日のダンス」など。ワークショップでは簡単な手話も使いますが、その場に手話通訳さんがいるので、手話がわからなくても大丈夫です。手話でコミュニケーションをとる聞こえない人と、手話がわからない聞こえる人が、ワークショップをとおして出会い、ともに身体を動かすことでお互いを知る場にもなっているといいます。

今年の1月におこなった、聴覚障害のある人と舞台芸術について学べる特別講座では、聴覚障害のある人に向けたパフォーマンスを考えるワークショップを実施したそうです。振動の出るものを使ったり床に寝転がったりと、チームごとにさまざまなパフォーマスの表現を考えるなかで、聴覚障害のある人が視覚的に情報を得ていることから、「照明をパチパチしてみたらどう?」というアイディアが出たそうです。

参加者の感想には、「音を音として聴くのではなく、振動などほかの使い方があることを知った」という声もあり、聴覚障害のある人を巻き込んでいくことによって、新しいダンスや身体の表現が広がっていくことが伝わってくる報告でした。

▼渋谷裕子さんによる報告の様子

【報告2】

つぎに、障害のある人もない人もごちゃまぜになって人形劇ワークショップをおこなうエイブル・アート・ジャパン主催の「みんなでつくるよ広場の人形劇!」(以下、広場の人形劇)について、ファシリテーターとしてかかわる美術家の工藤夏海さんと、運営スタッフとして参加するエイブル・アート・ジャパンの高橋から報告しました。

広場の人形劇は、人形をつくる・動かす、舞台をつくる、声や楽器で音楽をつける、劇をする、それを観るなど、人形劇が持つさまざまな要素から好きなことで参加ができる人形劇の場です。

2018年度からスタートし、ファシリテーターの夏海さん、参加者、アーティスト、ケアワーカー、ボランティアなど、たくさんの人と一緒につくってきました。毎回さまざまなできごとが生まれる広場の人形劇の活動から、ファシリテーターの夏海さんが大事にしてきたことや、参加者のみなさんから教えてもらったことについてお話しいただきました。

まず夏海さんが大事にしたのは、プログラムに参加者を無理やり沿わせるのではなく、その人がやろうとしていること、体が動くものに気づいて素早くセッティングすることです。一人ひとりを独立した表現する人として接し、年齢や特性の幅広い参加者の「できる・できない」「したい・したくない」を大切にしてきました。

そのことによって、予期せぬアイディアが浮かび、その場で生まれる表現をみんなで楽しむことができるようになっていったといいます。人形をつくる、動かす、音楽、舞台美術など、さまざまな要素がある人形劇は、参加者それぞれの得意なことや興味のあることに幅があるからこそ、豊かになっていきます。

その過程を「アメイジング」と語る夏海さん。思いついたことは躊躇なくやる、疲れたら横になって休む参加者の姿から、自然な創作の姿を思い出させてくれたといいます。

▼工藤夏海さんによる報告の様子

<テーマ②人材育成や環境形成の観点から>

テーマ②では、「人材育成」と「環境形成」という観点から、障害のある人とつくるパフォーミング・アーツ分野の活動のこれからについて、NPO法人アートワークショップすんぷちょの及川多香子さんと、特定非営利活動法人明日のたねの菊地将晃さんの対談をとおして考えました。


▼及川多香子さん(左)、菊地将晃さん(右)

○舞台芸術ならではの価値について

及川:NPO法人アートワークショップすんぷちょでは、すべての子どもたちが芸術文化に触れられるよう、主に舞台芸術を中心に公演、ワークショップ、環境形成などに取り組んでいます。すんぷちょの公演を鑑賞した人からは、出演者のみなさんの関係性や、ささいな動きにおもしろみを感じると言われることがあります。

菊地:わたしは山形県鶴岡市で障害のある人が参加できる表現活動の場「とあるアトリエ(仮)」をつくったり、ストリートダンスのインストラクターとしても活動しています。ストリートダンスの公演では「かっこいいね」「すごいね」という評価がほとんどですが、障害のある人とパフォーマンスをしたときに、「昔の記憶を思いだした」という感想をもらって、それがとても印象に残りました。障害のある人とダンスをつくるときは、まずその人の身体を受け入れて、特徴をとらえていくのですが、いろいろな人がいることで「余白」が生まれるのが大事だと思っています。その「余白」によって、個人の過去のできごとに結びつくというような感想が出てきたのかなと思います。

及川:昔の記憶を思い出すという、そこには存在していないなにかを引き出されるというのはおもしろいですよね。


○人材について

及川:障害のある人や感覚がちがうさまざまな人たちと舞台やワークショップをつくっていくとき、知らないことや固定概念がまだまだあります。どのようにその人の魅力を引き出し、おもしろい作品をつくっていけるかを考えたとき、障害種別ごとの感じ方のちがいや表現の方法について学ぶことが必要だなと感じています。

菊地:学びの場が大切だと思う一方で、頭で考えていくのは難しいところもあります。なので、まずはお互いが出会う場や一緒にいる時間を地域のなかにつくっていくことを大切にしています。渋谷さんの報告にもあったように、関わることで手話を学んでみようと思うとか、出会いの先に学びが生まれるのもいいですよね。


○環境づくりと課題について

菊地:コミュニティセンターや公民館などの場はあっても、まだいろんな人が参加できる場にはなっていないので、だれもがあたりまえに参加できる場をいろんな人と一緒に考えていきたいです。また、パフォーミング・アーツは無形のもので、効果が見えにくい。それが魅力的でもあるのですが、たとえば行政の方にも実際に参加してもらい、魅力を感じてもらう機会をつくりたいと思います。

及川:わたしは情報の伝わりにくさを痛感しています。障害のある人やその家族・支援者が情報をキャッチする方法もそれぞれなので、毎回さまざまなやりかたを模索しています。民間の団体だけでやるのは難しいので、行政機関はもちろん、教育機関や一般市民のみなさんにも興味や問題意識を持っていただき、一斉に情報を流せるような仕組みをつくっていきたいです。

<パネルディスカッション>

コメンテーターにクリエイティブ・アート実行委員会プロデューサーの伊地知裕子さんを迎えて、登壇者のみなさんと、障害のある人とつくることで見えてきた価値、場をつくっていくうえでの課題や展望についてディスカッションをしました。

柴崎:クリエイティブ・アート実行委員会(制作:ミューズカンパニー)は、障害のある人をふくめたダンス活動をおこなうほか、アート・プロジェクトの企画制作などに取り組んでいます。SOUPでは、障害のある人の芸術文化活動を支援する広域センターの活動として、クリエイティブ・アート実行委員会による公演を東京から招聘し、障害のある人が参加するダンスを仙台で鑑賞する機会や、ファシリテーター向けのワークショップの機会をつくってきました。渋谷さんや菊地さんは、ファシリテーター向けのワークショップ参加者でもあります。

▼パネルディスカッションの様子(左から柴崎、工藤さん、渋谷さん、及川さん、菊地さん、伊地知裕子さん)

伊地知:2つの報告を受けて、まず人形劇は、美術と一緒につくることができるのがおもしろいと思いました。障害のある人もない人も、直接ダンスで向かい合うよりは、道具を通して対話をすることで自分を出しやすいという点から、人形劇の可能性を感じました。
また聴覚障害のある人とのダンスでは、わたしたちは言葉に頼りすぎたコミュニケーションをしているので、ノンバーバルな環境でダンスをするというのは、ほんとうに「お互いを聞く」ということがおこなわれているのだと思います。

渋谷:参加者のなかで、聴覚障害のある若い人から「役者になりたい」と相談を受けたのですが、簡単に「東京に行っておいでよ」とは言えませんでした。でも、わたしにできることで、ここで一緒にダンスや演劇などの舞台芸術をおこなうにはどうしたらいいかを考えています。

柴崎:渋谷さんのワークショップには、聞こえない人が15人もワークショップに参加しているということですが、宮城でこの人数はすごいと思いました。

伊地知:東京にはろう者の劇団がありますが、渋谷さんが仙台でろう者のダンスパフォーマスの団体をつくるのはどうでしょうか。自分たちでつくっていくというのは大事かもしれません。


柴崎:夏海さんは、これまで広場の人形劇の活動を5年間続けてきましたが、これからしたいことや課題について、率直に思っていることはありますか。

夏海:5年間、広場の人形劇をやってくるなかで起こっていたアメイジングなできごとは、街自体に必要なものという感覚があります。街で暮らす人が目撃する機会をつくっていきたいけれど、場所や予算、スタッフの体制は課題があるなかで、協力してくれる場所や人を増やしてきたいと思っています。また、渋谷さんの「役者になりたい」と言った聴覚障害のある人の話を聞いて、「〇〇さんがこれをやりたい」と言ったことから中心に考えること、個人からその場をつくっていく機会を逃さないことがとても大事だと思いました。

伊地知:エイブル・アート・ジャパンが今回の研究会のように、障害のある人のパフォーミングアーツのフェスティバルの場をつくるといいのかなと思いました。

及川:上演する場所について言うと、その場を通りがかった人や関心の有無に関わらず、たまたま上演に触れられるような場所があるといいなと思います。仙台には「とっておきの音楽祭」という、街なかで障害のある人が出演する音楽やダンスのイベントがあり、次の活動にもつながるような出会いの場所にもなっています。そういう場所がもっと増えたらいいと思います。また福祉事業所が主体になると、どのようにやったらいいかわからないという声もあるので、そういう場にもっとアーティストが派遣されるといいなと思います。

柴崎:菊地さんの話では、ストリートダンスの「かっこいい」とは違う要素や別の価値観を見出していったという、菊地さん自身の変化の話がとてもおもしろかったです。

菊地:今の活動につながる背景をもうすこしお話しすると、車椅子の人と一緒にダンスをやっていくなかで、存在感の強さにとても驚きました。音に合わせて動くのが難しくても、とてもゆっくり動くのが表現として魅力だと思ったんです。障害のある人の表現は、こちらの受け取り方や見せ方を変えていくだけで、社会へのメッセージ性を持つのではないかと。そういう経験がいまの活動の動機にもなっていると思います。

柴崎:伊地知さんは、障害のある人自身が前に出て、ファシリテーターを養成していく取り組みもおこなっていると思いますが、地方では人が集まらないという課題もあります。人を育てていく必要性について、ぜひメッセージをいただけたらと思います。

伊地知:ファシリテーターを育成することはそれぞれの地域でいろいろな現場を持つことにつながります。ファシリテーターは、ダンス力だけでなく、みんなを動かしていく力、その人の即興の動きを見て「あなたのその動き、すごくよかったね」と反応できる見る目があることが大切です。障害のある人のなかには、まだダンスや表現活動をやったことがないという人もいます。地域のなかにいろんな活動の種を蒔いて、だれもが表現活動のできる場をつくっていくということがとにかく必要だと思いました。そこから障害のある人がファシリテーターとして育っていくこともあると思うので、今後そうしたサポートも進めていく必要があると思います。
最後に、わたしたちは地域コミュニティ全体をインクルーシブにしていくという、広い視点で取り組んでいく必要があると思っています。アートに関わる人たちは、自分たちの表現だけにフォーカスしがちですが、例えば、地域の歴史的建造物とダンスとか、音楽、地域の民話とかと何かアートを組み合わせるなど……。もう少し広くとらえながら、自分たちのアートフォームとつなげていくことが必要ではないかと思います。特に今のようにロシアのウクライナ侵攻とか、イスラエルとパレスチナの紛争など、遠い国のことと考えずに、どうかかわっていけるのか、という視点も必要ではないでしょうか?私たちはあなた方の隣にいますよ、というような表現をDVDなどで届けるとか。そうすると、世界は近くなりますよね?環境問題等も何かアートと組み合わせて考えることはできないでしょうか……?今後は、アートが社会や世界に対して、どういうことができるのかを考える広い視点も必要ではないかと思います。

来場者の声(アンケートより)

・ ワークショップでの気づきがとても興味深かったです。こういうものを数年、10数年続けていることの難しさも同時に感じられたし、みんなで地域の共同体として考えていくことが必要だと思いました(文化関係者)。
・ 障害を持つ人による演劇やダンスに触れる機会があるのを知れてよかった。障害者のアート活動が「余白」としても肯定的に受け止めてくれたのが安心した(障害のある人)。
・ 具体の活動、どんな思いで取組んでいるのか、課題、活動者としてのニーズなど、現場のお話を聞くことができ、有意義な時間でした。現場もぜひ拝見したいと思いました(行政職員)。
・ 実際に形にして活動されている方の話を聞かせていただき面白かった。自分でも何かやりたい、できる勇気をもらった(福祉関係者)。
・ パネラーの皆様の活動や考えていることがよくわかりました。新法が施行されましたが、障害のある方々にとっては幸福追求として文化をみて、参加する選択肢がまだ少ないこともわかりましたが、仲間が増えていっているように思います。もっと明るい社会を創っていくために皆様のような活動が今後も必要だと思います(文化関係者)。

レポート:高橋梨佳(NPO法人エイブル・アート・ジャパン)

■動画

近日公開予定、今しばらくお待ち下さい。

■関連リンク集

・渋谷裕子さんインタビュー記事 まちりょく「聞こえる人も、聞こえない人も。誰もがダンスを楽しめる場をつくる
・みんなでつくるよ広場の人形劇!2023 webページ
・NPO法人アートワークショップすんぷちょ webサイト
・特定非営利活動法人明日のたね webサイト
・クリエイティブ・アート実行委員会 webサイト

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