終了・報告

【レポート】アトリエつくるて2023をふりかえって

はじめに

みなさんこんにちは。「アトリエつくるて」ファシリテーター(見守り人)のしょうじこずえです。今年度もたくさんのつくるてさん(参加者さん)とドキドキワクワクな時間を共有させていただきありがとうございました。

「アトリエつくるて」(以下、アトリエ)という場は、ゆるやかに自分のペースで過ごせる場です。
何を描いても作っても大丈夫です。疲れたら休んでも大丈夫ですし、ほかのつくるてさんとお話してても大丈夫です。迷ったときはファシリテーターと一緒にお話しながらゆっくり進めてみましょう。障害の有無や国籍、年齢制限もありません。

2023年度の新しい試み

そんなアトリエも今年で5年目を迎えました。今年度は新しい試みとして午前・午後と時間を分けて開催しました。
年々、つくるてさんの人数も増え、より多くの人にこのアトリエを体験してもらえたら良いなと回数を増やして開催しました。
その試みのおかげもあり、新しい出会いがたくさん生まれ、少人数体制で伸びやかに進められたメリットがありました。その一方、これまでアトリエに継続参加していたメンバーが分散し、会うことが難しくなってしまった人もいたことから、「さみしい」という声もあり、課題も見えた一年でもありました。
コツコツと歩み続けてきたこのアトリエですが、同じ年などもちろんなく、毎年嬉しい変化や発見があります。7月~12月まで午前・午後合わせて計10回開催してきたアトリエをふりかえりながら、しょうじ目線での変化や発見をご紹介できたらと思います。

「つくる時間」での変化や発見

これまで「つくる時間」というのは、一人ひとりが黙々と机に向かって手を動かしている時間が多かったのですが、今年は自然と席を立ち、ほかのつくるてさんの作品を見に行ったり「何をつくっているんですか?」「どんな画材で描かれているんですか?」などコミュニケーションが生まれている様子が見られるようになりました。いろんな年代の人が参加しているのでお子さんが大人の参加者へ話しかけている様子も印象的でしたね。
5歳の参加者が大人の参加者がつくった作品を見て話しかけている様子

直接誰かと話す人もいれば、少し遠くから眺める方もいる、つくるてさん同士の会話を耳で聞きながら黙々と手を動かしている人もいます。
とある回では、つくるてさん同士が自然と同じ画材を使っている回もありました。粘土の作品が多かった粘土ブームの日や、抽象的な模様を描く人が多かった抽象画ブームなど。
その場で互いに影響し合い、刺激を与え合っている様子が感じられた面白い回でした。
粘土の作品

「見る時間」での変化や発見

そんなつくる時間以上に大切にしている時間が「みる時間」です。
「みる時間」は、その日につくった作品を、つくるてさんの言葉で話してもらい、みんなで鑑賞する時間です。これまでは、つくるてさんとファシリテーターが一対一で会話を進め、他の人は聞いていることが多かったのですが、今年はファシリテーターの目線だけではなく、つくるてさんの目線で積極的に質問があり、そこから会話が広がり、新しい見え方に気づかされた時間も多かったように感じました。
手話通訳がついたアトリエ

アトリエ5年目を終えて私が感じたことは、継続して参加するつくるてさんを中心に、アトリエへの関わり方に変化が生まれていることです。
他のつくるてさんに話しかけるようになったり、ご自身の話や質問をするようになったり……。そのような変化のきっかけのひとつが「見る時間」だったのかなと感じています。
作品の話をすることは、緊張や恥ずかしさ、言葉にする難しさなどもあると思います。人前で話す、他の人の話を聞く、そして自分ならどうかなと考え想像する時間を少しずつ積み重ねてきたことによって、関わり方が変化してきたのだと感じています。
2023年度にアトリエの参加者や付き添い者にとったアンケートでは、このような声がありました。

・アトリエに参加する以前より、自身の創作活動についてよりオープンに人と話すようになりました。★
・みんなの前で発表する機会があるなど、積極性が出てきた。自分の気持ちを皆に伝えたいという意欲が出てきた。
・人に見せられるものを作らなくちゃという気持ちが減った。★
・本人はマイペースで自分の描きたい絵を描いているが、他の人の絵を見て、かわいいなど感想を言うこともありました。また、他の人から絵を見られることで、嬉しく、自信が出てきた様子も見られました。
(★は障害のある参加者本人の声)

1年、2年ではわからなかった変化で、つくるてさんを通じてスタッフ側も大切なことに気づかされることが多かった5年目だったなと感じました。

つくるてさんとの対話を通して気づいたこと

ファシリテーターとしての私が、アトリエでできること(役割)はなんだろうかと今も考えながらみなさんと向き合っています。そんな私がいつも心がけていたことは、つくるてさん一人ひとりと対話をする時間をできるだけ平等に、大切に確保することでした。

例えば、初めて参加された方へは、すぐつくることに誘導せず「どこでアトリエを知ってくださったんですか?」「好きな画材はありますか?」と対話の時間をはじめに設けます。それは私自身が相手のことを知りたい(どんな思いで来てくださったのか、どんな方なのか等)気持ちもあると同時に、緊張をほぐし、ここは大丈夫。と安心してもらえるような環境を整えることを最優先に心がけていたからでした。
また、継続して参加している常連のつくるてさんへは「お変わりありませんでしたか?」「今日は何をつくりましょうか?」という会話から始まり、そこからその日の心の調子や体調を感じられるようにしていました。表情や作品を見て、いつもと少し違うなと感じたときは「何かありましたか?」と質問したり、時には私自身の制作の話なども織り交ぜたりしながら、つくる以上に話す時間を大切に過ごすこともありました。
もちろん色んな方が集う場なので、一人ひとりに合わせた対話や、この人になら話せる、受け止めてくれると思ってもらえることを心がけています。

つくるてさんからは色んな話を聞きました。
「近くのお気に入りの原っぱから見える夕焼けがとても綺麗なんです」
「ここに来るまで人混みにのまれ下ばかり見て歩いていたら色んな足跡を描きたくなって」
「ページェントを見ると綺麗と思うより、光を巻かれている木々がかわいそうだなと」
…そのほかご家族の話や苦しかった出来事の話、心癒されるハッピーな話などなど。
身体を動かしたり、表情や、作品を指さしたりしながら話をしてくれる人もいます。言葉だけではひろえない感覚的な部分も含め、つくるてさん一人ひとりの「声」を聞きながら、これからも大切に対話の時間を重ねていけたらなと思っています。

こずえさんと参加者

最後に、アトリエつくるては、その都度集まるつくるてさんが各々“つくる・みる・話す・いる時間”を自分のペースで過ごすことのできる温かくやさしい空気感に包まれているように感じています。
2024年度もまた皆さんとそんな空気感の中で時間を共有できたら嬉しく思います。
どうもありがとうございました。

レポート:しょうじこずえ

バナー:障害者芸術文化活動普及支援事業(厚生労働省)
バナー:ABLE ART JAPAN
バナー:Able Art Company