終了・報告

【報告レポート】ダンスワークショップ「響と踊ろう」

概要
「響と踊ろう」は、障害のある人、ない人それぞれ異なる身体の動きや特性を活かしながらダンスをつくっていくワークショップです。
令和5年度「障害者芸術文化活動普及支援事業(厚生労働省)」の南東北・北関東地区広域センター事業の一環として、「インテグレイテッド・ダンス・カンパニー響-Kyo」の皆様をお招きして、仙台市・山形市の2会場で開催しました。

仙台会場

2022年11月10日(木)
日立システムズホール仙台 2階 交流ホール
講師:河下亜紀さん(カンパニー響-kyo 教育普及部顧問)

仙台会場では、指導者・ファシリテーター向けの午前の部、障害のある人と合同で踊る午後の部を開催し、21人(うち障害のある人9人)が参加しました。
「インテグレイテッド・ダンス・カンパニー響-Kyo」からは、講師の河下さんのほか、ワークショップをリードする存在として3名の所属ダンサーが一緒に活動しました。

午前の部では、ファシリテーションを学ぶダンサーや、福祉の現場で活動する職員など9人が参加しました。講師の河下さんのリードのもと、実際にからだを動かしながら、ダンスワークショップのファシリテーションをする際に大事な考え方や、プログラムのアイディアを学びました。

最初に河下さんから「コンテンポラリーダンスは自分を豊かにしてくれました。今日はそれを、みなさまにもお伝えしたいと思います。私と同じようにできなくても良いので、いっぱい受け取ってほしい」という話がありました。

次に、実際にからだを動かしていきます。準備運動として「いろんな部分をゆらす」「足先をゆらしながら移動する」「背中の形を変える」などの活動を行いました。

その後「うごく・とまる」「だれかとポーズをつくる」というワークを行います。
その中で、「自分の選んだことを肯定していく。動き出すときも止まるときも、他人がそうするから同じようにするのではなく、自分で選んで決めるのが大事」という話がありました。

次に、2人1組で「動く人」「動かない人」に分かれてダンスをつくる活動を行いました。
デモンストレーションを行った河下さんからは「時には、本人が大丈夫だということを十分に確認した上で『こういうことをしたい』という強いアクションを出してもよい」「ファシリテーターは立ち上がったこと、興ることを肯定し、時にはこちらから投げかける」という話がありました。

また、長いゴムを使った活動も行いました。
活動を進めながら「ものがあると動きが生まれやすい一方、手で操作することに集中しすぎてからだの動きが死んでしまうこともあるので気をつける。また、動きが流れていってしまうので、止まることも主体的に行う」という、ファシリテーターが意識するべきことの話がありました。

最後に、まとめとして「ファシリテーターとして『つなげること』『主体的であること』『美意識』の三つを大事にする」という話があり、午前の部が終了しました。

午後の部では、福祉事業所に通う障害のある人、自宅で作家活動を行っている障害のある人、親子連れのダンサーなど12人が加わり、みんなで踊る合同ワークショップを行いました。

最初に河下さんから挨拶があり、みんなで自己紹介をした後にダンスがスタートしました。
準備運動として、音楽のリズムにあわせて「ゆらす」「胸を開く」「左右に揺れる」「お尻で歩く」などを行いました。
次に、いろいろな歩き方で歩き、止まってポーズをとるダンスを行いました。

午前中から参加している人は、学んだ内容をすぐに生かして、周りにいる方の存在や動き、サインを細やかに捉えながらダンスをつくっているように感じました。

イスにゴムをかけていくダンスでは、参加者が自らイスに座りゴムをかけられていくシーンもありました。午前の部で河下さんからお話があった「主体的であること」の一例として、象徴的なシーンであったように思います。

その後は参加者の発したテーマを取り入れながら、「希望」「雷」「対決」「恋愛」などの形をゴム紐を使って表現しました。最後には、チームそれぞれテーマを選びながら動きをつくっていくダンスを行い、午後の部は終了しました。

最後に、指導者・ファシリテーター向けの振り返りがあり、一人ひとりが感想や学び、午後のダンスで起きたことを共有しました。「これまで支援の現場で『こうしてください』というのがしんどかったが、今日は純粋な場として楽しめた」「自身のワークショップを行う中で『美しい』と思える瞬間や感覚を大事にしたい」といった感想がありました。
河下さんからは、「即興はなにが起こるかわからない」「新しい自分、新しい一面に出会える」「今日は、踊っている人にも見ている人のエネルギーが伝わったのではないか」「ダンスの基礎はバレエだけではない、新しい自分に出会っていってほしい」という話がありました。

 

山形会場

2022年11月11日(金)
山形市福祉体育館
講師:河下亜紀さん(カンパニー響-kyo 教育普及部顧問)

山形会場では、障害のある人と合同で踊るダンスワークショップを開催し、8人(うち障害のある人2人)が参加しました。山形市、鶴岡市で活動するダンスチームでファシリテーション経験のあるダンサーや、福祉事業所に通う障害のある人が参加しました。
「インテグレイテッド・ダンス・カンパニー響-Kyo」からは、講師の河下さんのほか、ワークショップをリードする存在として3人の所属ダンサーが一緒に活動しました。

最初に自己紹介、準備運動を行い、歩く・止まるのダンスから、少しずつからだをほぐしていきました。
次に、二人一組になって、隣り合わせになって歩きながら、相手の動きを受け取って動くダンスを体験しました。

その後は、会場にあった卓球台を幕の代わりにして、それぞれのアイディアで様々なダンスをつくっていきました。河下さんのデモンストレーションを受けて、急に飛び出したり、車イスを利用する人のあとについてゆっくり進んでいったりと、様々な動きのアイディアが生まれました。
中でも、卓球台の影からスッとあらわれて別の人と出会う瞬間や、言葉を交わさずともタイミングを合わせてジャンプして姿をあらわす瞬間など、からだとからだでコミュニケーションをとって踊るシーンが印象的でした。

次に、ゴムをつかったダンスを行いました。少しずつ、参加者全員で動きをつくりながらつながっていき、最後には広い体育館がちょうどよく感じるほど、ダイナミックで丁寧な動きが生まれていました。

最後の振り返りでは、「障害のある人と一緒に踊ることで、からだが開きやすくなった」「ゴムの活動を自分たちのチームでも早速やってみたい」「しなやかだったりコミカルだったり、いろいろなからだと対話できて楽しかった」といった声がありました。
また、「車イスを利用している人と踊るときに、触れてもいいかどうか迷うことがあります」という声に、車イスの方から「駅などで知らない人に急に触られたら怖いけど、こういった場でなら大丈夫」という話もありました。安心できるワークショップの空間をつくることも大事な要素であり、ファシリテーターの役割のひとつだと感じました。

講師の河下さんからは、今後、それぞれの現場でファシリテーションを行うにあたって、「使うものや音楽を選んでもらうなど、リーダーの役割を渡していくのもワークショップの醍醐味。選んでもらうことが、主体性や自尊心につながる」という話がありました。
また、プロデューサーの伊地知さんからは「参加者が主体的に動けるように、アイディアを出せる枠組みを作るのがファシリテーターの役割」という話がありました。
昨年度の公演の際にトークでも話されていた内容で、今回実際にワークショップを行うことで実感をもって理解することができました。

参加者は、今回のワークショップで学んだことを生かして、それぞれの現場で新たなダンスを生み出していくのではないかと思います。

撮影
仙台会場:小田島万里
山形会場:三浦晴子

(文:本事業コーディネーター/坂部認)

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