終了・報告

【レポート】2022年度のアトリエつくるて〜全体を振り返って〜

はじめに

こんにちは!アトリエつくるてのファシリテーター(見守り役)のひとり、佐竹です。
アトリエつくるてでは、大人もこどもも、障害のある人もない人も同じ場所に集まって、それぞれ自分の思うままに、ものをつくっています。
何かつくると誰かに見せたくなるし、誰かがつくったものを見ると、自分でもつくりたくなることってありませんか?
というわけで、このアトリエでは、つくった後にみんなで作品を「見る時間」を、じっくり設けています。
2022年度は全7回のアトリエと、自分たちで作品を額装するワークショップを開催しました。
このテキストでは、アトリエの場の様子をお届けしつつ、アトリエが続いてきたことで生まれた変化を見守り人視点で振り返りたいなと思います。

「自由につくる」を楽しむ

アトリエつくるては2019年にスタートして、今年で4年目を迎えました。
その都度、集まる顔ぶれは変わりますが、「見る時間」をガッツリとっていることもあり、だんだんと大人のリピーターが増えてきました。
低学年の頃からずっと続けて参加している子たちもいます。
(合うか合わないかは、どんな場所でも当然あるし、ぜひお試しできてもらえたらな、と)

子どもの参加者がファシリテーターに絵を見せている写真

自由につくるって、いざやると難しいんじゃないかと個人的に思っています。でもみなさんアトリエに来ると、驚くほど自然に手を動かしています。
たとえば、「好きなもの」をモチーフにする。けれど一口に「好きなもの」といっても、つくる人によって「好きなもの」とどう付き合って、どうあらわしているか、全然ちがいます。
ある人は、目の前の一枚の紙を宝箱のようにして、とにかくあらゆるものをならべていく。ある人は特定の好きなものだけを時代ごとにシリーズ化して、記憶から取り出して整理していく。自分の中にだけ存在する架空の「好きなもの」だからこそ描いている。「好きなもの」を他の人と一緒に遊べるようにゲームの形にする……などなど、アプローチは十人十色。
そもそも、何を描きたいかを決める必要もなくて、素材に触れて感触を知ったり楽しんだりする中で生まれるものにも魅力が詰まってます。
使う画材の感触や、からだを動かして偶然にできた色やかたち、線から出発して、おしまい、でもちろんいい。最終的にできたものがベストなわけでもなくて、手を動かしているあいだに起きていたその人ならではの法則や、途中の様子がとても豊かです。

黒一色でたくさんのうずまきを描いた絵といろんな色で葉っぱやキャラクターや食べ物などを描いた絵

家で黙々と集中してつくる時間も大事だけれど、知らない人同士で集まってつくるアトリエでは、過程を共有できる、という面白さがあります。
なんでもありのつくる時間の最中に、参加者に「どうやったら良くなりますか?」と聞かれたことって、振り返るとほぼなかった気がします。「背景はどうしようかな」「次は何しよう」「こういうのもあるよね」と対話して一緒に考えることはあっても、参加者が決めて、試行錯誤して方法を発明していくのがほとんどでした。どうつくるか、そのこだわりをみなさんが自分で大事にしています。

タブレットを使って絵を描く参加者の写真

「この表現が生まれるまで」を聞くと見方が変わる

作品に背景や意味を見出さなくても、ただじっと眺めて「ああいいな」と、それだけでも充実しています。
ただ、つくる時間と見る時間を通しておしゃべりし、みなさんそれぞれにある作品への思いや、その表現が生まれるまでの話を聞いて、作品の見方や見る心境が最初とガラッと変わる瞬間が、今年もたくさんありました。

仙台ではおなじみ・光のページェントをモチーフにした絵ができあがった後に「きれいだけど、こんなに電飾がたくさん巻かれていると、木にとっては重たくて大変なのかも」という会話があったと聞いて改めて絵を見ると、光の裏側に想像が広がる。
戦場のジオラマを作者が指さして「これはウクライナでの戦争をモチーフにしていて、このミニチュアの兵士は向こう側を撃ってるけど、本当は戦いたくないんじゃないかな」と語ると、目の前の作品だけじゃなくて現実の出来事にも思いを馳せる時間が生まれる。
どうしてこの作品が生まれたか、周りにいる人がどう見ているか、言葉を交わしてより近づけるようにも思います。

言葉といま書いたものの、参加者それぞれに、伝え方や得意なコミュニケーションもあります。
隣に座って聞こえるくらいの繊細な声で、詩の朗読のように内容を語る人からは、大事な秘密をこっそり分けてもらった気持ちになる。
ある子が紙いっぱいに描いたものを「グリンチ」、「うさぎ」、「かに」、「ピアノ」と何度も伝えて続けてくれて、最初気づけなかった彼女の世界を、一緒に過ごすうちにひとつひとつ知って増えていく。会ってつくって聞く、のあいだで起こる楽しみです。

描いた絵を他の参加者に見せながらおしゃべりしている写真

参加者が変えていく

4年ほどアトリエが続く中で、繰り返し参加してる人たちの間柄は「知らない人同士」から「知り合い」「ここで会う友人」「友達」に変化しています。
はじめは「見る時間」で話すくらいだった距離感から、つくる途中の様子をお互い気にしたり、他の人の作品にリアクションしたりとちょっとずつ関係性ができ、スタッフがいなくても作品の話や「今年のクリスマス何食べる?」みたいな雑談が自然に生まれています。

合作をしている2人の参加者の写真

2月には、普段家でつくっている人たちが「今日は二人で合作してみます」と共作をチャレンジ。描く行為を自己紹介のように使って機能させていて、おしゃべりが弾んでいました。
アトリエってどんな場だといいのかな?と思考して合作コーナーを用意したことも過去にありましたが、やっぱり当時と反応がちがうのは、参加者が自分で決めて変えていってるからなのだなと実感します。

最近では開始時間よりも早く来て作品づくりをスタートして、自分の中の表現の引き出しを日々増やしている人もいます。つくったものをSNSに載せたりと、作品を見せる意欲も、全体的により高まってきています。
今年からアトリエの会場がエイブル・アート・ジャパンの事務所に隣接したスペースでできるようにもなったのもあり、ちょっとした部室や談話室のような、参加する人たちが自発的に何かしやすい雰囲気でやっていけるといいのかもしれません。
作品や表現することが真ん中にあって、それを介してちょうどいい温度感で誰かと交流できる場。
とはいえ、家でも仕事場でも学校でもないからこそ、いつ来てもいいし、いつ来なくてもいい。そんな「ゆるやかな集い」を、今後も続けていけたらなと思います。

レポート:佐竹真紀子(アトリエつくるてファシリテーター)

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