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【活動報告・宮城県南三陸町】アート&ヘルス事業 のぞみの森プロジェクト

[こちらは終了しました]

エイブルアート・カンパニーは、2011年より国内のNPOと協働で東日本大震災により被災した福祉事業所の支援に取り組んできました。
宮城県南三陸町にある、のぞみ福祉作業所に対しては、町の観光のシンボルとなったモアイの商品の開発、紙漉き商品のブランド化の支援を実施しました。
その後は、2020年の施設再建に向けた活動に伴走するため、事業所の理念や対話を促すグランドデザインの支援に取り組みました。
約3年をかけて事業所のメンバーやスタッフと取り組んだメモリアルアートが完成しました。
その活動の報告です。

 

●のぞみの森、プロジェクトにいたる背景
 のぞみ福祉作業所のある南三陸町は、かさ上げ工事や居住地の集団移転で、目まぐるしく風景が変わっています。
のぞみ福祉作業所は、震災で施設が全壊し、現在は3カ所目となる仮設のプレハブが今もなお活動拠点となっていますが、ようやく町の再建に見通しがつきはじめたなか、これまでとは違う地域に施設を再建することになりました。
しかし、再建は2020年。当初は2016年でしたが、諸事情により延期に延期が繰り返されています。
そこで私たちは小さな活動ながら、まだまだつづく再建への道のりを伴走することとしました。目標は次の通りです。

1.メンバー、スタッフ、家族、支援者などが、施設再建に向けての想いをひとつにすることを手助けします。
2.メンバーのアートの力を施設再建に生かす仕組みをつくります。
3.アートが節点となり、コミュニティの場づくりを行い、障害のある人の魅力が地域に受け入れられ、社会化する仕組みに繋げます。
4.福祉の現場が元気になることで、町が元気になる波及効果を生みだします。

 

●3年をかけて制作されたメモリアルアート

2014年、南三陸町原産の蚕の繭を、南三陸町の植物で染め、一人ひとり、一本の糸を挽きました。
2015年、その糸で機をおりはじめました。
2016年、糸が布となり、新しいのぞみの未来を語り合う場をもちました。

〇グランドデザインワークショップ①(2016年2月)
 2014年から染織作家の寺川真弓さんとともに、「ゆっくり・やさしく・ていねいに」を合言葉に、施設再建に向けてメモリアルアートの制作に取り組んできました。
2014年~2015年はのぞみ福祉作業所のみなさんや養蚕を行う地域の方がたと南三陸町原産の蚕の繭を南三陸町の植物で染め、一人ひとり一本の糸を挽くワークショップを実施。
2016年2月にはその糸を実際にのぞみ福祉作業所のみなさんが織り機で織り、糸が布になることを体験しました。
機の前で最初は緊張していた表情も、糸が布になる瞬間、素敵な笑顔になったのが印象的でした。

 

〇グランドデザインワークショップ②(2016年10月)
 完成したメモリアルアート(下の写真中央の手織りタペストリー)を鑑賞し、その布にこめた寺川さんらの想いを共有しながら、のぞみ福祉作業所の拠点施設再建に向けて活動する、未来を語りあう場を開きました。
のぞみ福祉作業所メンバー、スタッフ、家族、地域の協力者、近隣の福祉事業所のみなさん、寺川真弓さん、商品開発にかかわるデザイナー、ライターなど47名が参加しました。
終了後、スタッフとファシリテータや協力者でワークショップの振り返りをし、のぞみ福祉作業所が大切にしたいものとは何かを話し合いました。

〇みんなで語ろう 「のぞみのこれまで、そしてこれから」

 テーマ:過去、現在、未来
 2016年 10月 6日(木) 10:00~15:00

第一部10:00~12:00
 のぞみの過去、現在、未来は?

・過去:のぞみのこれまでを年表、写真や動画で見ながら振り返る(震災後~)
・現在:質問「のぞみで何をしている時が好きですか?」「のぞみはどんなところ?」
・南三陸の繭から紡いだ糸でつくった織りの発表、鑑賞
コンセプト、新しい施設のメモリアルアートになることを伝える(寺川真弓さん)
⇒新しい施設のことを想像する

第二部13:00~15:00

・未来:質問「新しいのぞみで何をやりたい?」「のぞみをどんなところにしたい?」
 ワークショップ「新しいのぞみを描いてみよう!」
「その中にいる自分は何をしていますか?」絵や言葉や文字で表現してみよう。

ワークショップに同席したデザイナー、ライターが言葉をまとめ、これからの、のぞみ福祉作業所のコンセプトや指針となるものにしていくことになりました。

 

●染色家 寺川真弓さんからのメッセージ
 このタペストリーは3枚の布をつなぎ合わせて一枚にしています。
中央の布、色が美しく織り混ざった部分がのぞみの皆さんで織った部分です。
細い糸、太い糸、いろんな表情の糸の個性がすてきな風合いになりました。
両端の布、布が透けて見える部分は、小石丸亘理を糸に挽いて織りました。
小石丸亘理は南三陸で育った小さな繭で、細くて美しい糸になります。

色もすべて南三陸の色です。
黄色はのぞみの皆さんといっしょに仮設のまわりのセイタカアワダチ草をとってきて染めました。
濃茶はお蚕さんの糞で染めました。お蚕さんはたくさん南三陸の桑を食べてたくさん糞をして繭になります。
ピンクは南三陸の春に咲く花の命をいただきました。白梅、紅梅、ひがん桜など。
冬の間、木にためられた花の色は花が咲く前に煮出すと糸に染まりますが、花から花の色は染まりません。

このように南三陸で育まれたお蚕さんや草木の命がたくさんつまったタペストリーです。
のぞみの皆さんがはじめて糸を挽くこと、織ることに挑戦し、ゆっくり、やさしく、ていねいにがんばりましたが、皆さんががんばれるのも、家族の方やスタッフの方、地域の方々の支えがあるからです。

自然の恵み、人と人のつながりに感謝。

このタペストリーが新設のぞみにかざられて、いろんな人が訪ねてこられた時に皆さんが自身を持って「私がこれをつくりました!」とお話ししてください。
「南三陸の命がいっぱいつまったタペストリーです」
そんな想いを込めて作品の題名を「ノゾミ」としました。
いろんな経験したことを記憶し続けることが未来につながる。
このタペストリーがそんな想いに寄り添い続けるようにと願います。

 

●プロジェクトの成果と課題は?

〇成果
1. 2012年度からアートワークショップを継続し、メンバーのアート作品は、日々育ち、それを生かした商品開発や作品の展示をのぞみ福祉作業所に関わるメンバーとスタッフが自ら実施できるようになってきました。
今では、町のイベントにワークショップの運営チームとして参加し、自らの活動を地域に発信しています。

2.施設再建に向けての道のりはまだまだ長いのですが、メモリアルアートづくりを行うことで、メンバー、スタッフ、家族、地域の協力者などの気持ちがまとまり、未来に向けてそれぞれが想いを巡らせるひとつのシンボルが生まれました。

3.メモリアルアートを前に震災以降の経験を振り返り、その経験の中で希望をもたらしたものは何かをともに探りました。
このメモリアルアートをきっかけにして、新設する施設のこと、未来のことを考え、絵や言葉を使って発表しました。
この場は、メンバー、スタッフ、家族が、今後のぞみにとって何か大切なのか、想いを出し合い語り合う場になり、ただ新しい建物ができるだけではなく、中身をみんなでつくるために、メンバーの想いを取り入れる話合いを持つというきっかけとなりました。

〇のぞみ福祉作業所のスタッフの感想から
 ただの繭が自分達の手によって、素敵なタペストリーになり、とても驚きました。
繊細な作りでありながら、のぞみらしい個性的で楽しそうな雰囲気が感じられ、まるで未来の自分達を見ているようでした。
みんなで力を合わせて作ったこの作品のように新しいのぞみ福祉作業所もみんなで考え、作っていきたいと思います。

〇今後の展望
1.施設再建のための補助金等の申請作業が膨大で、スタッフが多忙になっています。
スタッフの中でも連携して、メンバーのケアと施設再建の事務作業にあたる必要があります。
2016年度から、専門のアートスタッフが継続的にかかわるようになり、エイブルアートやデザイナーと連携しながら定期的に表現活動を行う時間を持つようになりました。
現地で継続的に携わる方の存在により、今後よりいっそうメンバーの表現が引き出され、アート作品の質が深まっていくことを期待しています。

2.商品開発ではデザイナーとの連携も継続しています。
一歩一歩確実に、新しい商品開発も進み、のぞみ福祉作業所のブランディングが明確になってきています。

3.再建する施設では、地域に開いた場づくりや、リラックスできる場づくりも大切な要素であるということがワークショップを通して再確認されました。
アート×デザイン×コミュニティをキーワードに、のぞみ福祉作業所を今後もさらに地域に発信し、交流しながら、福祉の現場から地域を元気にする波及効果を生み出していくことを期待しています。

 

文責:エイブルアート・カンパニー東京事務局 柴崎
(事業の報告部分は東北事務局・武田和恵によるテキストをベースに記述)

メモリアルアート・のぞみの森プロジェクトチーム
製作:寺川真弓
協力:シルク総合開発、前川亜希子、前川雄一、佐藤孝範、清水啓一
事務局:エイブルアート・カンパニー東北事務局・東京事務局
佐々木えりな、武田和恵、柴崎由美子
公益財団法人パブリックリソース財団「アート&ヘルス基金」助成事業

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