じょうほうスウプ

学校における表現活動、3カ所を巡って(その1)

仙台市立鶴谷特別支援学校

訪問日
2017年1月30日(月)
所在地
仙台市宮城野区鶴ヶ谷5丁目22-1

仙台市立としては唯一の支援学校である仙台市立鶴谷特別支援学校での芸術活動の見学、意見交換。
平成28年4月に開校したばかりで、宮城県内全域を通学区とし、3年間の全寮制を特徴とした宮城県立支援学校女川高等学園での美術活動の様子。
支援学校の生徒と普通学校の生徒がともに総合文化部で活動している石巻市立青葉中学校の現在。
それぞれに異なる特徴を持った、3校を訪問してのレポート。

仙台市立唯一の支援学校で、在籍数151人(小学部50人、中学部41人、高等部60人)。小・中学部は、A課程として主に重複障害、B課程として知的障害・自閉症、高等部はC・D課程として肢体不自由など重複障害、E課程として知的障害・自閉症、の生徒でクラスが編成されています。
授業のなかで芸術活動に関わる活動を見聞したいと申し入れました。小学部では「生活単元学習」にあたり、その内容は、季節単元、季節行事、製作活動、体験活動、造形活動です。中学部・高等部には加えて「作業学習」があり、決められた製品をつくります。完成した製品はバザーで販売活動をして、総じて就労に向けた働くことの学びにつながる授業の一つだそうです。

「一般的に自己探求をする時間は、高等教育を修了する18歳または22歳まであるのですが、一方で障害のある人は13歳~15歳で就労に向けたことに力を入れる印象があります。その環境はここ数年に始まったことですか」と尋ねると「昔から作業学習はあります。作業学習は物のつくり方を学ぶだけではなくて、人と一緒に協力してなにかをする協働性の集団活動の目的、コミュニケーションの取り方、活動内容を通して生徒の情緒安定につながることを見出したり、生徒の得意な面を発見したり、さまざまな目的がこの授業には含まれています」と応えました。

「体や手を動かすことは、その人の得意な事を発見し、力を伸ばすときに有用な活動と位置づけられているのですね」と確認すると、「自閉症や情緒不安定を含む生徒の中には、やっていく過程で好きな活動が見出せることがあります。表情が穏やかになるし、活動への取り組みの姿勢も変わってくる。中には、そこで見出したことが家庭でもできることにつながり、家庭でも安定につながることもあります」応えました。

「卒後のつなぎについてどんな仕組み、交流、支援機関があると良いと考えますか」と尋ねると、「移行支援計画を持って担任・保護者・本人が面談にいき、福祉施設でも環境や活動内容を考えてうけ入れるようになっていること、この制度の仕組み自体は有効に機能していると思います。しかし、必ずしも生徒の特性にぴったり合う施設ばかりではありません。お互いが折り合いをつけて、現状にある施設から選んでいっているのが現状です。また、卒後に保護者が苦労しているのは、施設退所後の過ごし方。学校の場合は放課後デイがあり、帰宅は5時とかでしたが、卒後は放課後デイがないため3時以降は家庭にすべてが委ねられています。その時間に、もし成人でも通える放課後デイのような余暇ができて、いろいろな施設の人が来て過ごせる場所、そういう制度ができたらより余暇が広がるのではないかと思うのです。施設や保護者もそういった場所の必要性を認識していると話を聞いています。障害のある人に関わる人たち共通の思いではないでしょうか。また、保護者の高齢化や障害の特性から、送迎も整わないと難しいのではないでしょうか」と応えました。

次に、芸術文化活動に関する意見交換を行いました。そこで最近の障害のある人の芸術文化活動の興隆について意見をうかがうと、「公募展に出展する生徒は、家族が生徒の特性を見出して、その力を生かしている場合が多いです。家庭でものづくりをしていたり、造形教室に通っているなど。学校の名前で出していますが、余暇活動や造形教室で製作した作品を、学校が家族からかりて出展しています。現状は、家族の考えがあって余暇活動が広がっているのであって、本来12年間いる学校生活の中で余暇につながる部分をもっと伸ばしていける方向性はないかと考えています。また、仮に伸ばせたとしてもそれをつないでくれる卒後の施設がなければ、そこですべてが終わってしまいます。それでは本来の余暇の充実まではつながりません。活動に対し、学校も家庭も意識が一生懸命に向くかどうか、それがどこまでつづいていくものなのか、どんなふうに生徒の将来を豊かにするのか、その部分の見通しがないと定着しないのではないかと思っています。発表する機会は増えてきていますが、クオリティの高さを求められなくても、出展してみんなにみてもらえたと思えるような気軽に出せる作品展があるといいですね。守る日実行委員会主催の特別支援学級・特別支援学校の児童生徒による「わたしたちの作品展」は、まさにみんなが思ったことを表現して発表する場です。あのような大人になってもできる場所がもっとあると楽しくできるのかな、と思っています」と応えました。

最後に、先生の案内で学校内の授業を見学しました。ここでは観察した概要を掲載します。

一つめは、中学部「音楽を奏でよう」。生徒は中学部41人、教員はA課程9人・B課程12人・音楽の先生1人で合計22人。楽器はお琴で、由来や仕組みを先生が説明したあと、楽曲「さくら」を生徒が交替しながら演奏しました。弦を上から下に順に弾くとさくらのメロディになるようで、演奏しやすいようでした。弾く道具は親指にはめる本来のもの、先生がつくった棒状のものがあり、生徒に合わせて使いわけていました。教材や授業内容のプランは音楽の先生が考えているそうです。いざ演奏となると、生徒はいきいきとした表情になっていました。B課程の生徒は楽しみながら慎重に、A課程の生徒は弾くことを素直に楽しんでいるようでした。A課程の生徒の座位にあわせるため、先生が2人がかりで表情をプルプルさせながらお琴を持ち上げていた様子が、微笑ましく温かさを感じました。

二つめは、小学部「冬を楽しむ会」。A課程たんぽぽ組の生徒が6人、教員が9人、A課程つくし組の生徒が6人、教員が11人でした。教室に入ると、手づくりのこたつがあり、そこを囲んで冬の果物いよかんがたくさん。こたつは、ホットカーペット、テーブル、毛布を被せた即席です。お湯をはった洗面器にいよかんを入れて、香りを楽しんだり、実際に食べるなど、五感を刺激する授業内容を、生徒がとても楽しんでいました。いよかんが大好きな子、香りを楽しむ子、いよかんを食べてすっぱいという表情をする子、横になって話をきいている子、さまざまでしたが、教員が生徒の気持ちを代弁したり、声掛けしたり、気持ちを汲み取って共有していました。生徒数に対し教員が多いせいか、全体にゆとりが感じられました。

このほか、作業学習教室は設備が充実していました。そこではタイル・カレンダーづくり・木工・さをり・キャンドル・陶芸などをおこなっているそうで、4月に作業内容を選び1年間同じ作業を継続するとのことでした。また、校内の至るところに行事の写真や習字作品などが飾られていました。

(学校3カ所の文:佐々木えりな/柴崎由美子/高橋創一)

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