
終了・報告
【レポート】SOUPの研修2025第3回「どう見たらいいんだろう?作品や表現の見方を広げよう!」
研修概要
テーマ:どう見たらいいんだろう?作品や表現の見方を広げよう!
日時:2026年2月24日(火)15:00〜17:00
場所:みやぎハートフルセンター(対面とオンライン)
参加人数:19人(会場8人、オンライン11人)
講師:
城田侑希(しろた・ゆき)/社会福祉法人みぬま福祉会、アートセンター集スタッフ
堀川夏季(ほりかわ・なつき)/わらしべ舎羽黒台工房、アートコーディネーター
司会進行:高橋梨佳(たかはし・りか)/NPO法人エイブル・アート・ジャパン
*広報ページはこちら
URL=https://soup.ableart.org/program/2025nen/soup_kensyu2025/3_0224/
はじめに
こんにちは、仙台在住のアーティストの門眞妙(もんま・たえ)と申します。今回は私が2025年度のSOUPの研修第3回「どう見たらいいんだろう?作品や表現の見方を広げよう!」のレポートをお送りいたします。
私自身がアート作品を作り発表してきたこと、私の兄が重度知的障害者であること、兄は(外から見てわかりやすいかたちの)何かを作ったり表現するタイプではないことなどから、障害のある人の表現はアーティストとしては近く感じるけれど、きょうだいとしては遠く感じる。そんなもどかしさと理解を深めたい気持ちから、今回の研修内容に魅かれ参加をしました。
会場参加は私含めて8人、zoom参加が11人の合計19人、障害のある人の福祉やケアの現場に関わる方が多く、作家もいらっしゃいました。

研修のテーマについて説明する高橋さん
研修の流れ
① あいさつ・ゲスト紹介
② 埼玉県障害者アート企画展について
③ これってアートなの?
④ 重度の障害のある人の表現との向き合い方
⑤ 意見交換・Q &A
⑥ おわりに
まずは城田侑希さんのプレゼンテーションからスタート。「埼玉県障害者アート企画展」の事務局であるアートセンター集のスタッフでもあり、社会福祉法人みぬま福祉会の支援員の一人として、埼玉県の取り組みについてご報告いただきました。
埼玉県障害者アートネットワークTAMAP±〇について
埼玉県内の障害者の表現活動を支援する福祉施設・事業所が中心となった埼玉県障害者アートネットワーク「TAMAP±〇(タマップ プラマイゼロ)」。アートセンター集の事務局とメンバーが連携して活動しており、現在37団体・49施設が参加されています。月一回の定例会では、それぞれの施設での活動や情報交換、支援時の悩みを共有。参加者からのアンケートをもとに実践的な研修会を行い、団体施設の活動を繋ぎ、外部に広げていくための活動をご紹介いただきました。

TAMAP±〇について
“みんなでつくる”展覧会 「埼玉県障害者アート企画展」について
TAMAP±〇と社会福祉法人みぬま福祉会が主催する「埼玉県障害者アート企画展」には、毎年600〜700件の応募から選考会を経て100名以上の作家が出展しています。大変な応募数と出展者数です!一体どのように選考していくのでしょう。そこには細やかな工夫とプロセスがありました。
・選考会に向けて大切にすべき視点を学ぶ研修会を開く
・展覧会監修の美術作家の話を聞く
・多様な作品について、感じたことを言語化するグループワーク
・各施設でミニ選考会を行い、その結果をもとに本選考会を行う
などなど…
選考委員は美術関係者や福祉職員だけでなく、県職員、中学美術教諭、大学教授、弁護士などが参加されており、その属性の多様さに驚きました。現場の福祉職員も一緒に選考することで、その作品の背景を共有し、作品の見え方が変化する。そのことが選考委員自身の視点や考え方を変化させていく機会になっているそうです。

ミニ選考会と選考会について
研修会を通して支援員を育て学び合う時間を重ね、選考会もプロセスを公開(※)し見通しを良くすることで「みんなでつくっていく」過程や空気を大切にされていることがとても伝わってきました。
※こちらで毎年度の報告書がご覧いただけます。
https://artcenter-syu.com/type_topics/report/
「本展への参加を通していろんな作品の展示方法や見方を学び、それぞれの施設で展覧会を企画することでいろんな人たちにスポットライトが当たって、県内全体で障害者の芸術文化活動が推進されていく機会になれたら。」と城田さん。
展覧会が作家にとっても支援者にとってもゴールではなく新たなスタート地点になってほしい…ということなんですね。
次に、アトリエのある生活介護事業所「工房集」と活動事例を含めた作家をご紹介いただきました。
そのうちのお一人、杉浦篤(すぎうら・あつし)さん。

杉浦さんと作品
杉浦さんは家族との思い出の写真を自分の部屋で毎日見ては箱から取り出して…というのを続けていく中で、触ることで写真はセピア色に退色し、擦れて周囲も欠け、形が変わっていったそうです。“仕事”としてしているわけではない行為、「本人が大事にしていること・もの」が展示につながり、アートとしても評判を集めることで、改めて職員がこの作品・行為を「社会的に見たらどうなんだろう?」「本人にとってどうなんだろう?」と考える機会になったそうです。写真とは?記憶とは?、触れること、確かめること──などについて考えてみたくなる作品です。私もぜひ見てみたい!と思いました。
余談ですが私の兄は鉄道の本を眺めるのが好きで、独特の手のスナップとよだれによって本は擦れて変形していきます。ある程度ボロボロになると母はそれを捨て、新しい本と交換します。それをせず、そのままにしておいたらどうなるんだろう?なんて、杉浦さんのエピソードを聞いて、想像してみたりしました。
これってアートなの? 重度の障害がある人の表現の向き合い方
「その人がその時をどう過ごしたか」
次は仙台市にあるわらしべ舎羽黒台工房(以下、羽黒台工房)アートコーディネーターの堀川夏季さんのプレゼンテーション。羽黒台工房は日中活動の中心に「アート・表現活動」を据え、日々の活動に取り組まれています。利用者は知的障害がある人、医療的ケアが必要な人、強度行動障害のある人など。他害、物投げの特性のある強度行動障害のある人は、日常の支援では安全や状況に気を配りながら関わる必要があるそうです。そんな中、「アート・表現活動」の時間で見せる別の表情、それによって変化した支援者の視点について、事例を通してご紹介いただきました。

わらしべ舎のアート活動の事例紹介
なるほど!と思ったのは、「その人なりの表現と、展示の言葉についての考え方」。
展示をする際、作品解説(キャプション)を添えることがあります。羽黒台工房では作者の想い(作家自身で言葉にして表現しづらいこと)を支援者が“決めつける”のではなく、起きたこと・過ごしていた時間・事実を大切に伝えるという方針のもと、キャプションを作成されています。作者の想いを決めつけるでもなく、美術史や既存の価値観に引き寄せるでもなく、シンプルに「その人が存在し生きている」ことそのものが浮かび上がってくると感じ、ハッとしました。

キャプションもとても大切
完成を(支援者が)決めるのではなく、「今日はここまで」「続きはまたここから」と終わりを支える言葉の声がけの取り組みの試行錯誤。
よくないとされる行動を「やめさせる」から「欲求を満たす支援」へ変えると、そのような行動が減ってきたこと。
利用者それぞれが安心して制作ができる環境を設定し、自分自身の世界に深く入っていくことで落ち着いて過ごせる時間が増える。そして支援者も安心して関われる瞬間が生まれる。こうした変化それ自体がすでに価値を生んでいる表現だと、堀川さんはお話されました。
質疑応答・Q&Aから(一部をピックアップ)
①絵を描かれている作家より
Q.他人の評価を気にせず自分の好きな絵を描きたい。他の方はどう乗り越えているのでしょう?
A.
城田さん:毎年選ばれているけどいつか選ばれなくなるかもと不安を抱えている利用者はいます。展覧会に選ばれなかった=評価されなかったということではないので、私たちの立場として言えることは、「その展覧会のコンセプトに合わなかった」。選考委員によっても変わるし、また出してみてはどうですか、と伝えています。作家同士の繋がりの中で解消される部分もあるんじゃないのかなと思います。
堀川さん:作品自体がその人の生き様のような、それ自体に価値があるものと考えているので、その方の気持ちに寄り添っていけるような声がけを心がけています。ただ声がけの内容によっては受け手の気持ちを変えてしまうものでもあるので、寄り添う時間や目線を大事にしています。城田さんの声がけは、本人の気持ちの切り替えにも繋がるのかなと思って、ぜひやってみたいです。
②アート活動をされている施設の職員より
Q.職員集団として方向性を決めたりまとめるのが難しい。
A.
城田さん:上司に理解されなくて新しい画材が買えないとか、チームがまだできていないという施設は結構たくさんあります。
利用者の一人の作品が展示されたら、利用者と職員みんなで見に行って、喜びを分かち合って、他の利用者にも徐々に広がっていく様子を共有する、というのをTAMAP±〇参加の施設から聞きます。職員で意見を出し合いながら、試しても大丈夫な雰囲気をつくっていく方向性が良いのかな。
堀川さん:羽黒台工房では、職員の思いや価値観をすり合わせるために、障害別のアート活動の促しや、理念に基づいたアプローチについてのマニュアルを作りました。月に一回の全体会議の中で取り組みや寄り添う姿勢をリマインドして、実際の現場でどのような変化があるかを模索しながら見ているところです。根本の大事にしたいことが揃ってから、創作だったり展示だったり、一つひとつ急がずにやっていくことが大切かなと思います。

右から時計回りに、堀川さん、城田さん、高橋さん
研修を終えて
実践的な取り組みのお話を通し、障害者アートの展覧会や活動において、私が見えていなかった部分をたくさん知ることができました。
お二人のプレゼンテーションは共通して、利用者へのケアに留まらず、利用者と支援者・関係者が双方に良い影響を与え合う豊かさと、それを可能にするための工夫と努力、たゆまない試行錯誤の連続のお話であったと思います。
自明とされているような約束事を取り払い、一人ひとりに向き合いながらより良い方向に組み立て直していく取り組みは、私の活動している美術業界でも見習いたいところがたくさんある!と思いました。
また、研修参加者からの質問で「評価を気にしてしまう」というお話は誰しもにある悩みであり、どんなことができるのか私も考えていきたいと思いました。
今後、障害のある人のアートや展覧会について観たり考えたりする視点をたくさん頂く機会になりました。講師のみなさま、ありがとうございました!
レポート:門眞妙(アーティスト、画家)

会場の様子
参加者の声(アンケートより)
・支援の具体例でありました『やめさせる』から『ゴールを見つける』などの着眼点の考え方、日常生活での些細な気付きを大切にして行動へのきっかけに変化させるというところが大きな学びでした。
・今回入選しなかったのはコンセプトが合わなかったと考えるのもよいことだと学べました。応援歌のように感じました。
・日常の中にヒントやひらめきがたくさんある事に感動しました。それだけ信頼関係を気づかれているんだなと実感しました。
・1人だけが理解していても実行できないことや、技量やアイデアはあるのに資金、場所などがないために実現できない事も再確認し、こういった活動を広く周知することで認知してもらい、力を合わせて行けたら素敵だなと感じました。
・今関わっている子どもたちの一見問題に見える行動から見方を変えて、何か表現につながる活動をできないかよく考えてみたいと思います。




