
終了・報告
【レポート】出張ワークショップ(スイッチ・センダイ)
はじめに
NPO法人エイブル・アート・ジャパンでは、障害のある人とない人がともにつくる人形劇の活動「みんなでつくるよ広場の人形劇!」を、人形劇団ポンコレラの工藤夏海さんをファシリテーターに2018年度から行ってきました。人と人との間に人形があることで生まれるコミュニケーションや、さまざまな人が集まり即興的に起こる出来事の豊かさを伝えていきたいという思いから、2024年3月に、約5年間の活動の記録をまとめた[冊子]を制作しました。これまで参加者募集型の活動を行ってきましたが、2024年度から、その記録冊子を片手に創作や表現に関わる活動機会の少ない福祉事業所などに出向き、出張ワークショップを開催してきました。今年度(2025年度)は、2ヶ所で実施しました。
このレポートでは、「就労移行支援事業所スイッチ・センダイ」さんで実施したワークショップについて報告します。
*2024年度のワークショップレポートは[こちら]
ワークショップの概要
実施先:認定NPO法人Switch 就労移行支援事業所スイッチ・センダイ(仙台市宮城野区)
日時:2025年12月18日13:15~15:00
参加者: スイッチ・センダイ利用者5人、スイッチ・センダイ職員1人、見学2人
ファシリテーター:工藤夏海(美術家・人形劇団ポンコレラ)
コーディネーター:正木千尋、髙橋梨佳(エイブル・アート・ジャパン)
打ち合わせやヒアリングの様子
スイッチ・センダイさんには、就職や復職を目指す精神疾患や発達障害、難病のある方などが通っています。普段の活動は、個別での活動時間が多いため、利用者同士での雑談や集団でのコミュニケーションは少なく、最初は緊張感が高まる可能性があること、利用者の手先の動きや創作のプロセスを見たいという職員の想いもあったことから、ものづくりを通して緊張をほぐしていけるよう、簡単な人形をつくる時間をプログラムに組み込みました。
また、利用者さんの中に自己表現が苦手な方や、コミュニケーションに不安を抱えている方が多いというお話もありました。そのため、焦らず待つ姿勢を大切にしながら、「自分ではないもの」を通して気持ちを表現する経験をしてほしいという想いから、人形劇団ポンコレラの工藤夏海さんがおこなっている即興劇「まちがい劇場」を取り入れることになりました。

▲参加者を募るためのチラシ(制作:工藤夏海)
当日の様子
当日のスケジュール
12:50~ 準備
13:15〜 挨拶、今日の流れの説明
13:20〜 人形作り
13:45~ 人形で自己紹介
14:10〜 「まちがい劇場」の説明
14:17〜 「まちがい劇場」1回目
14:35〜 「まちがい劇場」2回目
14:50〜 振り返り
15:00 終了
12:50~ 準備
前半の工作の時間に合わせて机を配置し、材料の準備を行いました。
会場は、利用者が普段ワークスペースとして使用している部屋であり、ワークショップに参加しない方も同じ空間で過ごしていました。そのため、スイッチ・センダイの職員から「人形劇の活動を行う中で、音や声が聞こえてくるかもしれません。集中したい人は別の部屋を利用することもできますし、この部屋を利用し続けても大丈夫です」といったアナウンスがありました。
13:15〜 挨拶・今日の流れの説明
スイッチ・センダイでの実施は今回が初めてだったため、これまでの広場の人形劇の活動について簡単に紹介しました。その後、ファシリテーターの工藤夏海さんより、ワークショップの流れについて説明がありました。
工藤さんが「みなさんと人形で遊びたいです」と声をかけると、緊張感のある空気の中ではありましたが、みなさんが静かにうなずく姿が見られました。

▲人形劇団ポンコレラの工藤夏海さん

▲会場の様子
13:20〜 人形づくり
今回は、画用紙にハサミで切り込みをいれるなど簡単な工程でできる紙人形をつくります。まずは工藤さんが画用紙で人形のつくり方を実演。画用紙を折って足をつくることで歩く表現ができるなど、人形の動きがイメージしやすくなります。
好きな画用紙を選ぶとほどなくして黙々と人形づくりに取り組む参加者のみなさん。「口をつくりたい」「この先どうしよう……」と迷っている人には、装飾に使えるパーツや別の色の画用紙を紹介するなど、イメージをふくらませるためのサポートをおこないました。

▲手でちぎった画用紙のパーツやマッキーで目を表現

▲切ったり折ったりして足などのパーツができていきます
13:45~ 人形で自己紹介
次に、完成した人形で自己紹介をしました。富士山をイメージしてつくられたものや、本人の好奇心から生まれたイメージなど、見た目もコンセプトもさまざまな人形が出来上がりました。他の人がつくった人形を、真剣に観察している様子が印象的でした。人形による自己紹介を通して、緊張していた空気も次第にやわらいでいったように感じられました。
その後、工藤さんから、人形を使って歩く・走る・浮く・飛び回るなど、少しの動きで多様な表現ができること、また観る人の想像力を借りて表現をつくっていくことなど、人形劇の魅力について話があり、参加者全員で実際に人形を動かしてみました。

▲雲海や富士五湖も表現した富士山の人形

▲「もこもこ星」から来たギャルのギャル子ちゃん

▲歩く表現を実演する工藤さん
14:10〜 「まちがい劇場」の説明
完成した人形を使い、即興劇「まちがい劇場」をおこないました。
「まちがい劇場」は、舞台上の〈まちがい劇場〉の札を外すことで劇が始まり、〈おしまい〉と書かれた札を置くことで終了するルールの即興劇です。事前の打ち合わせはおこなわず、出演者同士で自由に物語を展開していきます。
参加者から「まちがい劇場」の名前について質問があり、工藤さんが「正解がない劇場です。オチがなくてもいいし、即興なので相手にあわせてもいいし合わせなくてもいい。決まった型がないーそんな理由から、この名前をつけました。」と答えるなど、即興劇の大事な視点が共有される場面もありました。

▲右側にあるのが、外すことで劇のはじまりをあらわす〈まちがい劇場〉の札
14:17〜 「まちがい劇場」1回目
1回目は、最初に座った席の隣の人とペアになっておこないました。
最初のペアは、トップバッターに戸惑いながらも、会話を通してお互いの夢を語る内容となり、それが本人の想いとも重なっているように感じられました。二人のやり取りは、次第にリラックスしたものになっていきます。その中で、人形が自分自身と語るといった場面もありました。
簡単に方向性を話し合ってからスタートしたペアもありました。設定はあるものの会話は即興で、相手の出方を見ながら思わぬ方向へと進んでいくその場の会話を楽しんでいる様子でした。

▲富士山をイメージした人形と、雪だるまのかたちをした人形のまちがい劇場

▲劇が終わる合図となる〈おしまい〉札
14:35〜 「まちがい劇場」2回目
また別の人とまちがい劇場をやってみます。2回目は、見学者も人数に含め、くじ引きで組み合わせを決めました。今回は2人組のペアだけでなく、3人組のグループもあります。
3人組のグループでは、2体の人形が先に会話を始め、残りの1体は登場のタイミングをうかがっている様子が見られたり、一人が自然とまとめ役となり、次々と変化する物語の状況を言葉で実況したりなど、2人組とは異なる人形同士の関わり方が生まれていました。相手の突拍子のないセリフにびっくりしたり、なにもしない時間や沈黙が生まれたりと、1回目になかったやりとりも生まれていました。
会場には笑い声が広がり、あたたかな雰囲気に包まれていました。

▲3体によるまちがい劇場
14:50〜 振り返り
参加者からは、「台本があると思っていたけれど、アドリブで即興的に考えるのがすごく楽しかった」という声もあれば、「即興は難しくて、もっと頭の回転が早かったらいいのになぁと思っていた」という声もありました。それに対して工藤さんは「セリフがすぐに出てこないことのほうが多いですよ。『うーん』と考えている時間も、人形が『うーん』て言っているように見える。それも含めて劇の一つになるので大丈夫です」と伝えました。
スイッチ・センダイの職員からは、「みなさんの普段とは違う一面が見られて、こちらも自然と笑顔になりました。このような経験はなかなかないので、今日の体験を通して『こういう遊び方もいいな』『自分はつくることが好きなんだな』といった発見や気づきにつながっていってくれたら嬉しいです」という声がありました。

▲振り返りの様子
15:00~ 終了
終了後、参加者の一人がわたしたちスタッフを呼び止め、「とてもいい経験になりました。もともと表現することに興味があったんです」と声をかけてくれました。
人形たちの記念撮影をしている間も、参加者のみなさんは大切そうに自分のつくった人形を眺めており、そのまなざしから、充実した時間だったことが感じられました。

▲この日誕生した人形たちの集合写真
参加者の声
・「自由」の中でどう動けばいいのか悩みましたが、答えなんかなく自分の思うがままにやれば良い、自分にそう言い聞かせてやってみたら楽しかったので結果オールOKです。
・劇を演じている人の笑顔、普段はみせない表情がありその人の本質みたいなものを感じる事ができ新鮮でした。
・人それぞれの個性や主張が楽しいと思った。
・人形を作っている時が一番印象に残りました。どんなキャラに仕上げようかというわくわく感が今でも残っています。
・楽しく活動できて、時間の流れが早く感じた。人前で何かをやるのは苦手だが、それでもしっかり出来たと思う。
スイッチ・センダイ 職員の声
後日の振り返りでは、「普段はうつむいて職員とあまり話さなかった利用者さんが、ワークショップの後、言葉を返してくれるようになりました。心をほぐすきっかけになったのではないかと感じました。劇の内容の中に、本人の内面が表れているように感じられる場面もありました」といった、ワークショップ前後の参加者の変化について話してくれました。
また、課題としては、「今回は初めての取り組みだったため、どこまでこちらで進行・サポートするのがよいのか判断が難しい場面もありました。内部への確認が多くなったことから、事前に役割分担や進行の範囲など、全体像を共有できているとよりスムーズだったのではないかと感じました」というお話がありました。
ファシリテーターより(文:工藤夏海)
初めて開催する場所なのでできるだけ参加者のみなさんがハードルを感じない方法を考えていきました。また、人形劇の手法で行うコミュニケーションに触れてもらって、人間対人間では詰めにくい距離や言いづらいことを劇として行うことで、余白を作りにくい人間関係を少し緩めることができるように、まちがい劇場の時間をたっぷり取ることを目指しました。
人形の工作は、一律な人形にならない方法で、紙を折って切るだけのものを提示しましたが、参加者によっては初めてで少し難しかった人もいたようです。「完璧じゃなくて良いので、人形劇に登場すればどんなものもいい感じになるので」と励ましながら進め、結果的にその人の分身のような、ある方が「自分の内面が形になったような」と言っていましたが、本当に様々な幅の広いキャラクターが出来上がりました。舞台は昨年と同じやり方を考えていましたが、参加者の中から「あのテーブルを舞台にして、こっちを客席にすればいいと思う」と自然と提案が出て、実際そのほうが断然この場所に合っていました。そしてこの提案と実現によって、主体的に参加し楽しむぞ、という場の空気が生まれた気がします。
上演は2人バージョン、3人バージョンいずれの組み合わせも心に残る上演ばかりで、劇は他者との関わりで発生する楽しさに溢れていました。それは私だけでなく、あの場で見ていた全員に伝わっていたと思います。振り返りの時間も、始める前の不安からやってみて気づいたことや考えたことなど、短時間で変化する自分の内面や他者への理解などが感じられて、感想を聞くことができて本当に嬉しかったです。
おわりに
倒れている人のとなりで「ぼくは有名になりたいんだ!」と、その場の文脈にまったく関係ないセリフが飛び出すなど、正解のない「まちがい劇場」のエッセンスを、存分に楽しんでもらえたように感じました。日常では大人になるにつれて言いたいことを言うことが難しい場面もあるかもしれませんが、今回の即興劇では、それぞれの言いたいことが自然に飛び出し、思いがけない行動が生まれていました。普段の活動では利用者同士のコミュニケーションが多くない中で、そうしたやりとりが無理なく引き出されていたことからも、人形劇という自分ではないものが語る表現の可能性と面白さをあらためて実感した時間となりました。
レポート:正木千尋、高橋梨佳(NPO法人エイブル・アート・ジャパン)




